花笑み Ⅱ (ページ37)

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「おつかれさま」

唇に手を添えてぼーっとしていた俺に、
先生は空いたままのドアを軽くノックしてから声をかけてきた。

「…あぁ、はい、ありがとうございます」

そのまま静かに部屋に入ってきて、
いくつか事務的な確認事項を済ませると、

先生はにこやかに微笑んだまま、
「頑張りすぎちゃったね」
と言った。

「少し熱もあるし、
　疲労も溜まっているだろうから、
　今日明日はすこしゆっくりして。
　それから、」

「…仕事は、」

「マネージャーさんが調整するとおっしゃっていたよ。
　それに、できる状態じゃないことくらい、
　自分でもわかってるでしょ」

何も言えなかった。

「…すみません。
　お話、途中でしたよね」

先生の話を遮ったことを思い出して、
沈黙を埋める。

「…今日はよく休んで」

先生の後ろから看護師が現れて、
枕元の花弁の綺麗に片付けていく。

その様子を相変わらずぼーっと見つめていた。

先生が何を言いかけたのか、
なんとなく想像はつく。

花弁を片付けられて綺麗になったベッドに
もう一度横になると、

また身体の力が抜けていくような気がした。

今は、自分を突き動かしてくれるものが何もない。

先生も看護師も出ていった静かな病室で、
ついさっきまで聞いていた音楽や、仲間たちの声が、
幻聴のように頭の奥で鳴っている。

気がつくと涙がこぼれ落ちてきて、
腕で目を覆って静かに泣いた。

来年、彼らと一緒にいられる未来が想像できない。

この常に付きまとう胸の苦しさも、
花の香りも、この期間に一段と重くなった身体も、
全てが物語っている。

ゴールが見えなかったカウントダウンが、
始まった気がした。