花笑み Ⅱ (ページ35)

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73.カウントダウンページ35

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覚えているのは、
満員の客席と、宝石みたいに眩しいみんなの笑顔。

世界はどこかずっと霞んで見えていたけれど、
それさえも美しく見えて、
幸せだったことは覚えている。

すべてが繋がる感覚。

メンバーはもちろん、
スタッフさんや客席に至るまで
全てと一つになって、

言うことを聞かない身体は
それに突き動かされていた。

操られているのとはまた違う、
やけに心地よい感覚だった。

繋がっている一つが欠ければきっと、
自分の身体は動かなくなる。

自分を突き動かしていたそれの一つは、
頭上から降りてくる幕に容赦なく遮られていき、

俺は名残惜しくて
必死に手を振り続けた。

もしかしたら、
この景色はもう二度と見られないかもしれない。

そして、それが完全に遮られた瞬間、
自分の身体は、自分のものではないように、
無意識に地面に吸い込まれそうになって、
その感覚に自分が一番動揺する。

「あれ…？」

dt「…あれ、じゃねぇよ」

情けない言葉も身体も舘さんに拾われて、
思わず自嘲気味な笑いがこみ上げる。

身体は火照って、
驚くほど身体の力は入らない。

ずっと胸の奥に何かがつかえている気がするのは、
きっと身体の外に出ようとしている花びらだ。

さっきまで見ていた景色が、
全て夢みたいに思えて、

確かめるように周りを見回した。

気づくと他のメンバーにも囲まれていて、
彼らは汗を拭くこともせずに、

迷惑かけっぱなしの俺に
どこまでも優しい視線を向けてくれている。

その光景はやっぱり夢みたいに綺麗で、
また目を細めた。

「…おれ、ちゃんとできてた？」

sk「うん、最後までちゃんと、
　アイドルの阿部ちゃんだったよ」

情けない笑みがこぼれた。

次第にまぶたが重くなってきて、
意識が遠のいていく。

sk「おつかれさま」

遠くで佐久間の優しい声が聞こえた気がした。