60.泡沫 ページ22
Side:sk
ピンク色の衣装に身を包み、
舞台の幕の内側で、
俺たち9人はそっと肩を組んだ。
去年も踏んだはずのこの舞台が、
なぜか特別なものに見えた。
阿部ちゃんの身体に手を回すと、
細い身体にもしなやかな筋肉が感じられる。
ぬくもりも、その笑顔も、
たしかに彼は
「いつもと同じように」
ここにいる。
iw「最後まで、怪我なく、
後悔しないように、届けましょう」
照の言葉一つ一つを噛み締めた。
客席に漏れないよう、
小さく声を掛け合い、
控えめに気合を入れる。
「阿部ちゃん。」
それぞれがポジションに付く前、
俺はそっとシンメの名前を呼んだ。
ab「ん？」
彼の振り返りざま、
背伸びをして彼を抱きしめる。
阿部ちゃんも、ワンクッション置いてから、
俺の身体を強く抱きしめ返してくれた。
「何かあったら、
絶対助けるから。
無理だけはしないで」
耳元でそうささやくと、
彼は「ありがとう」と言って
俺の肩の上で何度も頷いた。
花の香りはどんどん強くなっている。
こうして抱きしめると、
彼が新調した、と言っていた香り以上に、
新鮮で爽やかな
花の蜜の香りが鼻をつく。
ab「佐久間、」
「なに？」
ab「俺、舞台上の佐久間が一番好き。
眩しくて魅力的で、
誰より輝いてる。」
「…なに急に。照れる笑」
ab「佐久間がシンメで良かった」
「…これが最後みたいに言うじゃん。」
ab「…そうだね、ごめん」
その背中をバシン、と叩いて身体を離す。
阿部ちゃんはやっぱり優しく微笑んでいた。
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作者名：haryu
| 作成日時：2020年9月17日 22時
