花笑み Ⅱ (ページ17)

今日:15 hit、昨日:49 hit、合計:292,810 hit

55.信じてページ17

Side:iw

ムキになっていたのは俺の方で、
現実から逃げようとしていたのは
俺のほうだったのだ、

と舘さんに言われて気がついた。

阿部の病気が分かってからの数年間、
俺は何をしていたのだろうか。

冷静なふりをして、
受け止めたふりをして、

本当は俺が一番現実から逃げていたのかもしれない。

目の前で花を吐いても、倒れても、
阿部はいつだって戻ってきた。

だから、それが当たり前だ、
と思っていたのかもしれない。

阿部が大量の花弁を吐いたあの日も、
3人に伝えたあの日も、

阿部はとっくに自分の命と向き合っていたのに、

俺は他人事で。

支えるとか、守るとか、
口ではなんとでも言えた。

本当の意味で
向き合えていなかったのは
俺の方だったのだ。

無意識に涙がこぼれ落ちてきたのは
いつぶりだろうか。

人の前で泣くことすら久々で、
どう対処すべきか迷って、

俺はただそこに突っ立って、
溢れる涙に戸惑っていた。

静かな足音と共に、
花の香りが近づいてきて、

俺はどうすることも出来ずに、
その足音から逃げるように歩き出す。

ab「待って、照」

それが俺を探してきたのだと悟ると、
余計に涙が止まらなくなった。

「後悔するな」という舘さんの言葉を思い出した。

ここで逃げたら、
きっと俺はまた後悔する。

そう思って、逃げようとする足を無理やり止めた。