花笑み Ⅱ (ページ16)

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「先に戻ってるよ」

もう一度頭をがしがしと撫でて、
あえて顔は覗き込まなようにして、
背中を向けた。

照の服が擦れる音がして、
乱暴に涙を拭い始めたのが分かった。

泣くことに慣れていないから、
きっとどう対処して良いのかわからないのだろう。

切れ長の目が、
真っ赤に腫れ上がらないことを祈りつつ、

腫れ上がった目をどういじってやろうか、
なんて無意識に考えた。

廊下の角を曲がると、

声を殺して涙を流している、
もう一人の弟と出くわした。

「余計なことした？」

阿部は黙って首を横に振った。

「…ありがとう、宮ちゃん」

dt「やめろ、その呼び方」

目を真っ赤にして、
あの時の呼び方をするから、

仲直りをしたあの日のことを思い出した。

きっかけがなかっただけで、
たくさんの時間を無駄にしてしまった。

俺は、
彼らの「きっかけ」になれただろうか。

俺はこの弟の頭も、
同じようにぐりぐりと撫でた。

やっぱり俺よりも頭の位置は高いけれど。

「手のかかる弟たちだな」

ab「…ごめん」

「どうする？」

ab「ちょっと行ってくるね」

阿部はそう言って、涙を拭うと、
俺に向かって笑顔を向けた。

照のいる方向にゆっくりと向かっていく姿を、
俺は黙って見送った。

お互いが少しでも後悔しないように。

残された時間を大切に、
愛おしかったと思えるように。

あいつらなら、
不器用な俺の想いを
きっと、受け取ってくれるだろう。