Apr.20 16:30 ページ6
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ガラガラと古い音を立てる扉を開けた。
どこか懐かしい匂いと、新しい藺草の匂いが混ざる。
A弓具店。読んで字の如く、うちの家系が営んでいる。店主は教士の叔母様。お店だけでなく、弓具のメンテナンスなどもしてくれるので、私としては頭が下がる一方だ。
窓から差し込む夕陽に、埃がキラキラと瞬いたところで奥から声がかかった。
「いらっしゃ……あ。おかえりなさい、お嬢」
「……」
「ん?どうしたんスか?」
「……いえ、本当にそう呼ぶんだなと思いまして」
「そりゃあ。Aさんはおかみさんの姪御さんですから」
当然じゃないッスか! とペカペカの笑顔で話す彼は、今春からバイトとして働いている伏見ガクさん。
近くの大学に通いながら、週3日くらいで叔母様の代わりに店番をしてくれているお兄さんだ。
「あ。おかみさんは外出してるんスけど、お嬢の弓は射場に置いてあるって言ってましたよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、店番お願いします」
「了解ッス!」
ペカッと笑う彼の横を抜けて、母屋の扉を開ける。ローファーを脱いで振り返ると、真面目に在庫を数える背中が見えた。
あ、そうだ。
「ガクさん」
「ん? どうしました?」
「あの。……ただいま」
大きな瞳を丸くする姿が、彼の髪型も相まってなんだか小狐のようで。それが存外にかわいらしい反応で、自然と口角が上がった。
「……はい。おかえりなさい」
ふわりと華やぐ笑みと、差し込む夕陽が影を落とす。
なんだか神秘的にものと見たような気分がした。
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* 伏見ガク
大学3年生。
A弓具店のバイト。
決してお狐様ではない。
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森。(プロフ) - 用語解説あるのすごく助かります!お話の雰囲気とテンポ感が好きです!次の話も楽しみです! (2023年3月12日 8時) (レス) @page9 id: 21990a494b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花束 | 作成日時:2023年1月19日 21時