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名前、組、科に始め怪我の状態等書き込まれたカルテがぶっきらぼうに渡された。心操人使、と角張った小さな文字で綴られた文字の下に続くカルテを眺めていると、心操は居心地の悪そうな面持ちで丸椅子に座り直した。顔を見ないままに玲湖は立ち上がり、簡易冷蔵庫へと向かう。
「ちゃんと歩けてるし骨に異常なさそうだね」
「俺だって本当は来るつもりなかったんだ」
クラスの奴に行ってこいって、と段々と小さくなる声に苦笑する。決着は緑谷の一本背負いで決まったのだが、勢いが有り余って心操はかなり強く背中を打ち付けていた。受身を取れている取れていない以前に、音も見た感じもかなり迫力があったものだと思う。あれはきっと受身をとったとしても痛い。緑谷と授業で個性無しの格闘技を組んだ事はないが、当たりたくはないな、と思う。玲湖もクラス内でも格闘技の成績は比較的上位にいるのだが緑谷の成績はどのようなものだったか。しかし、以前見かけた時には1-Aでも特に体格の良い砂藤に果敢に攻めていっていたので中々の猛者だろう。個性など使われてしまっては一溜りもない。流石、身体強化系の個性だ。ただただシンプルに、強い。
玲湖の個性にしたって、所謂戦闘向きかそうでないかと言われたら確実に後者だ。血液を媒介に、物質の分解、抽出、結晶化と多くのセクションを要する。応用を重ねることは可能だが、単純に戦闘に適しているとは言えないのだ。だからといって、救助活動に向いているかどうかと言われても素直に首を縦に降ることは出来ない。あの境遇でなければ、玲湖の個性は没個性と何ら変わりないのだ。自分より、ヒーローに向いている個性を持つ者は多くいる。本来なら他に埋もれる筈の玲湖は事情が重なった結果だけで此処に居るのだ。
「湿布だけ渡しておくから、痛みが酷くなったり違和感あったらまた来て」
「アンタは……」
差し出した湿布は受け取られず、代わりに真っ直ぐな目を向けられた。酷い隈の上に佇む眼差しは嫌になる程真っ直ぐだった。
「アンタ、名前は?」
「……魚住、玲湖」
「ふぅん……魚住サン。魚住サンの個性は?」
「結晶化っていうやつだよ」
「見せてよ」
湿布はまだ彼の手に渡っていない。唐突に始まった尋問のように絶妙な圧迫感を感じる問答。一向に注がれたままの視線は此方が逸らすことを許さなかった。
「嫌だよ」
「何で?いいだろ、それくらい。ヒーロー科なんだ、さぞかしド派手で立派な個性を持ってんだろ」
「……そうかもね」
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