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誰もが個性を持たぬ時代、世界規模のスポーツ競技、オリンピックが4年に1度行われていたという。始まりは遠い昔のギリシャ、途方も無い時を歩んだそれは、超常の迎えと共に姿を消した。まるで、個性持ちという異分子の事を置き去りにしてしまうかのように呆気なくオリンピックは歴史に語られるものに成り果てた。教科書でしかその存在を知らない玲湖だが、時は巡り現代、雄英体育祭がかつてのオリンピックだと称されているとは到底思えないのである。それは余りにも慢心が過ぎてる。自惚れだ。たかが一高校の体育祭如きが、世界を繋げうる祭典の右に出るなど有り得ないのである。
と思いつつも、何処にいても聞こえてくる歓声に酷く顔を顰める。保健室を出た途端これだ。救護室は3学年が訪れる為、ちょうど3つの会場の真ん中に構えられている。ので響く歓声も3倍という訳だ。
このまま戻ると、アナウンス席の2人に事情説明せねばならないのか。リカバリーガールから連絡は入っているだろうが、恐らく玲湖自身の口から事情を聞きたがるだろう。それを思うと途端に歩む足が重く感じる。上司が、部下の仕事ぶりを見学しに来ました。そんな腑抜けた文言が思い付いたが恐らくきちんと話せと一蹴されてしまう。はぐらかす事も出来なくはないが、尋問の時間が長くなるだけの無駄だろう。誰か来たのか、名前は、顔は、何をしに来たのか、何を話したのか。そんなもの、どうせありのままを伝えたところで得られる情報は欠けらも無い。そういう人間達だと、分かっているだろうに。
ところで、このヒーロー社会には暗部なるものが存在する。本当の名前は誰も知らない。誰かが適当に付けた名がそのまま通称として広まっているだけだ。ヒーロー会の闇。暗黙の存在。一般的なヒーローらが表のヒーローならば此方は裏のヒーローといったところか。イレイザーヘッドのようなアングラの更にアングラ、存在を認識してはいけない部門。公には晒せないような仕事、例えば敵組織のスパイだったり要人の保護観察だったり。大物敵の尋問や時には拷問、暗殺、組織解体、隠蔽工作など、依頼があれば何でもござれな萬屋である。ヒーロー協会にも一応そういった部門は用意されているが此方はそんな褒められた仕事はない。主に政治の世界金の世界にて生息する暗部の人間に人権はない。名前も、戸籍も、場合によっては姿も変更されその人となり全てを隠し表の世界では過ごせなくなる。
玲湖の上司とは、その暗部の人間である。
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