目線 ページ7
「お帰りなさい玲湖ちゃん」
「わあつーちゃんのお出迎えだ」
玲湖が保健室から戻ってきた時には、もう教室にいる人数は疎らであった。それでも残っていた蛙吹のお出迎えに玲湖は頬を緩めて艶々とした黒髪を撫でた。それに蛙吹ははにかみケロ、と笑う。
と、そこにバタバタと忙しない足音が2つやってきた。
「玲湖!!」
「魚住君!!大丈夫なのか!?」
「お茶子さんに飯田君もお出迎えありがとう」
まだ残ってたんだね、と零す玲湖に飯田はムッとして
「友を置いて先に帰る程冷淡ではないぞ」
と返した。数瞬きょとん、としてから玲湖は嬉しそうに笑う。
「それに、お礼を言わねばならなくてな」
「私もよ、玲湖ちゃん。……あの時、玲湖ちゃんが来ていなければどうなっていたか」
あの時とは、死柄木の手が蛙吹の眼前に迫ったとき。担任が地面に叩き伏せられたのを目の前にし、動けなくなっていたクラスメイト。どうするかなんて、何も考えていなかった。気付いたら個性を発動させ、死柄木の手を結晶で塞いでいたのだ。助けたかった。クラスメイトだったから。そんな綺麗な理由ではないのだろう。そんな、何処かのヒーローみたいに、無意識の内に助けるべく体が動いていた、なんて口が裂けても言えない。そんな資格などとうの昔に捨てたではないか。あれは、ただの自己満足だと言い聞かせた。
「ありがとうね、救けてくれて」
「……つーちゃん」
真っ直ぐこちらを見てお礼を言った蛙吹に、何故だか泣きたくなった。止めて欲しかった、こんな、穢れた動機でしかない自分に、そんな綺麗な言葉は似合わない。
引き攣る頬を無理矢理押さえつけ、玲湖は努めて明るい調子で笑った。
「私の大事なつーちゃんに怪我なんてさせられないからね」
「何か、玲湖って梅雨ちゃんには妙に優しくあらへん?」
「つーちゃんのこと大好きだから」
恨めしげな目を向ける麗日に態とらしく真面目な顔して言った。
「否定せんのかいっ!」
ビシ、と勢いよく突っ込む麗日に、お茶子も好きだよと言って見せれば即嘘っぽいと言われてしまった。
「お互い様だよ。今度はつーちゃんに助けられるかもしんないし」
「応急手当までしちゃって玲湖さん様様やね」
「うむ、あの場で一番冷静だったのは魚住君だ。あの時声を掛けてくれただろう?不甲斐ないな、委員長の僕が……」
「いや、ナイス判断だったよ飯田君。飯田君がいなきゃあの戦況がどうなっていたか分からない。飯田君だからこそ出来たんだよ。最善を、ありがとう」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：英 | 作成日時：2018年1月21日 23時
