代償 ページ5
窓から茜が差し、夕焼けに染まり上がるリノリウムの廊下。緑谷と別れ保健室を出た玲湖は、神妙な面持ちで教室へと道を辿って行く。
上手く、誤魔化せただろうか。
緑谷に語ってみせたことは、質問の本質的な答えと言うには到底足りないものだった。あれはまた序章に過ぎず、プロローグにも満たない。リカバリーガールとの会話や、USJでの敵の言葉を聞かれてしまった為何かしらの質問を受ける覚悟はしていた。とは言っても、本来であれば話すことなく曖昧に濁し躱すことも出来ただろうに。自分でも驚く程にすんなりと口が開き言葉を紡いでいた。別に、知られても何の支障のないことだったからかもしれない。リカバリーガールとの衝突で気が昂っていたからかもしれない。無個性狩りの言葉を、久々に他人の口から聞いたからかもしれない。それとも、あの澄んだ目に捕えられてしまったからか。
緑谷出久というクラスメイトはとても不思議だ。初めの個性把握テストでは、自分と同じく序盤では一切個性を使用していなかった。しかし、その種目の終盤、ボール投げで突如としてその強力過ぎる個性をぶちかまし、見事ヒーローらしい記録を叩き出していた。その反動なのか、彼の指が不自然な方向に曲がっていたのを覚えている。結果は自分の上でドべ2。最下位は除籍という合理的虚偽(彼のことだから半分本気だったのかもしれないが)に素直に騙され最下位を免れて周囲と共に喜びを分かち合っていた。
初めて話したのは、二日目の食堂。お茶子と共に出向いたランチラッシュの飯所で、自分とお茶子、飯田、そして緑谷の4人でテーブルを囲った。時折挙動不審になって慌てていたかと思えば、大きな目をキラキラと輝かせヒーローを語る姿が面白かった。どうやらかなりのヒーローオタクらしい。
物腰柔らかで気弱、という彼の認識がひっくり返ったのはその日の午後。初のヒーロー基礎学。聞く限り幼馴染であるが険悪な仲の爆豪勝己というクラスメイトとのタイマン勝負。戦闘中ながらも敵を分析する力に長け、機転が利く。入試一位の成績を収めた爆豪とボロボロになりながらも渡り合うその姿は痛々しい程に真っ直ぐで、見ていて眩しかった。緑谷の個性の反動は毎回凄まじい。1発放つだけでも爆発的な力を見せる代わりに骨1本2本、確実にやられている。個性が発現したばかりの子供ではあるまいに、拙く荒い個性の使い方が目に付いた。
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作者名：英 | 作成日時：2018年1月21日 23時
