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そして玲湖は個性の制御に勤しんだ。玲湖の両親に非は無い。ただ、玲湖の洞察力が優れていただけだった。もしも、玲湖が何も知らずにいたならばここまで拗れることはなかっただろうに。しかし、あの当時玲湖に正しく個性の使い方を教えてくれるような者は一人もいなかった。玲湖が自身の個性の危険性を理解していなければ悲惨な事が起きていた可能性も否定出来ない。悟ってしまった事が、幸か不幸かはどちらとも言えなかった。
両親を、自分から守る為。
玲湖の行動理由は、これのみであったそうだ。
「13号の方も処置は終わって問題ないそうだ。意識も今朝戻った」
ちらりと机の上に目をやればいつ置いたのかゼリーの詰め合わせ。こういう所にまた玲湖の核の部分を垣間見ることが出来る。
優秀な生徒だ。誰が何と言おうと。
「左様ですか」
「……よくやった」
ドアの手前まで来た背中。緩慢な動きで此方を振り返る玲湖の表情は、
「みっともない、滑稽な足掻きでしたね」
「あ?何を」
「もう今更何やったって変わらないのに、ねえ。まさか自分でも希望を持ち合わせてたらしくて驚きです。幼稚な、……貴方の嫌う不合理そのものでしたかね」
「おま、」
「では、お大事になさってくださいね」
せんせ、と口元に笑みを浮かべて見せた玲湖の目は一切笑っていなかった。
スライド式の扉がするりと閉められ、遠ざかる足音。待て、の声は届かなかった。玲湖の出ていった病室に残るのは遠くへ退けられた椅子と見舞いのゼリー、そしてベッドで寝たままの自分だけだ。僅かに見えた、玲湖の動揺。吐き捨てるようなその言葉は、自分に言い聞かせているようにも見えた。あんな、泣きそうに笑うくらいならばもういっその事。
「あああ……クソ」
どうしてまた、ややこしい方向に拗れてしまうのか。自分の事を無視して受け入れたつもりでいる玲湖も、肝心な時に何も出来ない自分も。
昨日の玲湖の動きを婆さんやオールマイトさんから聞いて、玲湖にとっての将来に何か見いだせるものがあったかと思ったがまさかの逆戻りだ。
先はまだ遠い。溝は埋まった所か悪化したのではないか。何か、小さな事でもいい。玲湖が見方を変える切っ掛けとなるものが、何処かに。
「……体育祭、か」
いや、無理だろう。既に通達は来ているし、ましてや敵連合の主格に存在を知られているのだ。下手に目立つ行為は避けさせねばなるまい。
うんざりする程に青い空を睨みつける。出来ることならもう少し、彼女に優しい世界を。
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作者名：英 | 作成日時：2018年1月21日 23時
