episode.9 ページ10
「嘘……」
「本当さ。こんな事でオレが嘘を吐くとでも?それにルシフェルも同意した。オレもルシフェルもAの戦闘力は良く知ってる。他に適任はいないだろう?それに君をずっと研究区画に閉じ込めておくのも良くないってルシフェルが珍しく頑なだったんだぜ?」
「ルシファーは、なんて?」
ルシフェルと腹心のベリアルがいくら進言しようと最終的に決定権はルシファーにあるのだ。彼が許可をしてなければ今抱いてしまっている期待は全て打ち砕かれてしまう。
そんなAの不安が表情に現れたのを読み取ったベリアルは、Aの頬を頬杖をついていない左手で包んだ。
「ファーさんはキミも討伐に赴くのを許可した」
Aは目を見開いた。全ての時が一瞬止まってしまったかのような錯覚に陥る。
ポタリ
温かい雫がベリアルの左手を濡らした。
「本当に……?」
Aの流した涙はとどまることを知らずに溢れ落ちた。
自分が本当に力になれているのかずっと不安だった。自分に重大な欠落があるのかと自問を繰り返した。一方的に安息を覚えていた彼の恩にようやく報いることが出来る。彼が背負っていた大きな負担をやっと軽減できる機会が訪れた。自分より先に造られた2人の偉大な六枚羽、背中を追い続けて漸く追いついたのだ。
今まで自分に絡みついた自己嫌悪と劣等感、誰にも告げた事のない秘めた悩みから、この瞬間に全て解放された気がした。その全てが今この頬を流れる雫には籠っている。
「ベリアルッ……ほんと、っに、ありがとぉっ」
「ルシフェルはAが今日は休暇だから報告は明日でいいって言ったが、Aは何より待ち望んだモノだろう?」
まぁ、オレだけの力じゃなかったけどと戯けてウィンクを飛ばすベリアルにAは心の底から感謝した。
「ほら、折角温めたホットチョコレートが冷めちまう。Aの泣き顔を愉しむのも捨て難いが冷めないうちに飲んでくれ。キミの為に持ってきたんだ」
そう言って自分のマグカップに口をつけるベリアル。Aも涙を拭うとベリアルに倣って、まだ温かいホットチョコレートで溢れる幸福感を胃に流し込んだ。喉を通るチョコレートは先程より甘く変化している気がした。
その後も他愛のない話を続けたベリアルとのティータイムは、思わぬ福音とチョコレートに満たされAをひと時の夢見心地へと導いた。
164人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
花房(プロフ) - かえでさん» ありがとうございます!続きを現在制作途中なので、コメント頂けてとても励みになりました! (2020年1月28日 0時) (レス) id: fdefab8ffa (このIDを非表示/違反報告)
かえで - 面白すぎて一気読みしてしまいました!ファーさん大好きなので嬉しいです!ゆっくりでいいので続き待ってます〜! (2020年1月26日 16時) (レス) id: 07d90d10b2 (このIDを非表示/違反報告)
花房(プロフ) - うささん» 私も勝手ながらうささんにこの小説に巡り合って頂けたこと嬉しく思います!読んで下さり有難うございます! (2019年7月6日 3時) (レス) id: 11b4cc7523 (このIDを非表示/違反報告)
うさ - ルシファー立ちが大好きなので巡り会えたのがとても嬉しいです! (2019年6月30日 16時) (レス) id: ef6ea16959 (このIDを非表示/違反報告)
花房(プロフ) - 堕天司さん» ありがとうございます。時間はかかりますが完結目指て続けていこうと考えています。落ちに着いては私自身まだ熟考中ですので、ご意見の1つとしてご参考にさせて頂きますね! (2019年6月22日 0時) (レス) id: fdefab8ffa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:花房 | 作成日時:2019年4月18日 11時