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わきの下をくすぐったら､ゆりは､やっと目を覚ましてからだを起こした。
ベッドの上にペタンと座って目をこする。
「潤くん､おはよう」
『おはよう､ゆりちゃん』
「何時？」
『もう３時。あれから２時間寝てる…寝過ぎだよ』
「私､練習しないと…」
『そう。早く服着なさい。でないとまたやっちゃうよ』
「ふふ…やだ」
『でしょ。２回目はしつこいよ(笑)』
「(笑)早く着なきゃ…」
『着せてやろっか？』
「うん」
『練習用のでいい？』
「うん」
俺はゆりに下着を履かせて､ブラをつけてやって､ショートパンツとＴシャツを着せた。
『髪は？結ぶ？』
「…潤くんにできる？」
『やってみる(笑)』
ゆりの髪を２つに分けてチョコレート色のシュシュでくくる。
左右の高さが違う…そしてゆるい。
でも､ゆりは「ありがとう」って笑ってチェロのケースを開けた。
・
ストッパーを床に置いてエンドピンを立てて軽く調弦する。
４本の弦を一本ずつ鳴らして響きを確かめる…
じっと耳を傾けて…俺にはわからない…なにかを聴く。
たぶんそれは…音の質感みたいなものじゃないかと思う。
音階を下から上までパラパラと弾いて…
椅子に座りなおす。
呼吸でリズムがわかる…
ゆりが弾く数秒前から音楽は始まって…
それが伝わってくる。
そして…低音が部屋に溢れかえる…
J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲第１番ト長調より
まずはプレリュード…
・
陽だまり…
琥珀色に輝くイタリアの古い楽器…
指板を押さえる白い指
ヴィブラートの振幅
自由自在に弧を描く長い弓…
左右非対称に結んだ髪が揺れる。
チェリーの色の丸い唇…
小さなひざこぞう
小さなかかと
ゆりを失いたくないって気持ちが強烈に胸に迫って…
なんか…泣きそうになった。
ゆりに見つからないように､音が盛り上がるところで鼻をすすり上げたのに…
ゆりは､ふっと顔を上げて俺のほうを見て…
なぁに？って言うみたいに､ちょっと首を傾けて…小さく微笑んだ。
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作者名：花 | 作成日時：2020年1月7日 19時
