#6 翔とのばら ページ18
のばらside
私は､このバスルームが大好き。
明るくて広くて…バスタブは､まあるいひょうたん型で。
淡いグリーンのタイルには四角い形のくぼみがあって､翔ちゃんのシェーバーが置いてある｡
チューブタイプの洗顔フォームは､翔ちゃんが握りしめて中身を出すもんだから､手のひら形にへこんでる…
翔ちゃんと､こんなにゆっくり過ごすのは何ヶ月ぶりだろう｡
一緒にお湯に浸かって読書なんて…しあわせすぎて､全然本に集中できない。
湯気の向こうの翔ちゃんは､また難しそうな本を読んでいる｡
くりくりした丸い瞳が文字を追う。
目の動きで､集中してることがわかる。
顔も肩も腕も手も､汗の粒でびっしり覆われていて､綺麗なお魚みたいにテラテラ光ってる。
・
私が読んでる本は海外の人気作家が書いたミステリー。
おもしろいはずなんだけど…
文字の上を目が滑るだけで､意味が頭に入ってこない。
翔ちゃんがまっすぐ伸ばした足が､ずっと私のからだに当たってて…
だからなおさら…本がつまらない…
私はあきらめて､本を閉じて窓のところに置いた。
この前ここに来たのはいつだっけ…
そうだ…翔ちゃんが留守のときだった。
いつもどおり､洗濯機を回して､掃除をして…
冷蔵庫の中を整理して足りないものを買い足して…
ゴミを業者さんに手渡して…
そうやって､部屋をきれいにしてから半身浴した。
あの日はひとりで２時間も入ってた。
翔ちゃんは暑がりだから…きっともうすぐ…出ようって言う…
・
翔ちゃんの様子を観察する。
汗がすごい…
でも…本に集中…
バスタブの縁に肘をかけて本を持っているから､わきの毛が見える｡
濡れて肌に張りついた毛は…なんか…扇情的で…ドキドキする。
だって…翔ちゃんのわきの毛は…下の毛と毛質が同じだから…
なんて、変なことを考える。
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作者名：花 | 作成日時：2020年1月7日 19時
