検索窓
今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:2,300 hit

ーEpisodeー ページ5

*

「雪。」

声を掛けると振り返る、白い猫。
いつもの場所に、ちょこっと座っている。
もう自分の名前を覚えた賢い子は、
遙の足元に顔を近付けた。

今日はどしゃぶりの雨。
頭痛もいつもより激しい気がするが、
雨が降っているということに、気が紛れた。
いつもの路地裏に来ると、やっぱり雪はいて、
心なしか雪も喜んでいるように見える。

「今日はね、由実が__」

今日の出来事を話すのも、日課になった。
話している間は、静かに座ってくれる。

_どれだけ賢いのよ……_

「じゃあ、また今度雨の日にね。」

一通り話し終え、雪を一撫でした遙は立ち上がり、
雪にそう告げた。
その時だった。





「待って! 雪!」

キキーッ!

ドンッ









「遙……?」

「あぁ、由実。おはよう。」

「大丈夫? 顔色が悪いよ?」

「うん……大丈夫。気にしないで。」

翌朝。遙は朝早くから、机に突っ伏していた。
目を閉じると思い出すのは、昨日の光景。

雪は、いきなり路地裏を出た。
いつもお利口にしていたので、
遙は一瞬動きが止まった。
今起きたことを理解し、声をかけた時には。

原因は、雨でスリップした車と激突したことだった。
大雨で視界が悪くなったことも理由かもしれない。

真っ白な、雪の毛が、
どんどん赤く染まっていった。
桃色になったそれ(・・)は、宙を舞い、
静かに道路へ落ちていった。

「雪……」

外は、胸が苦しくなるほど潔い晴天。
数週間前までは喜んでいた筈の遙の心は、
真っ黒な、どす黒い雲で埋め尽くされていた。



「遙、大丈夫かな。」

日に日に顔色が悪くなっていく遙。
何も知らない由実は、只々見守るしか無かった。

*

ーEpisodeー→←ーEpisodeー



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (18 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
5人がお気に入り
設定タグ:市販書き(一次創作) , 華の小説集 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年10月19日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。