ーEpisodeー ページ5
*
「雪。」
声を掛けると振り返る、白い猫。
いつもの場所に、ちょこっと座っている。
もう自分の名前を覚えた賢い子は、
遙の足元に顔を近付けた。
今日はどしゃぶりの雨。
頭痛もいつもより激しい気がするが、
雨が降っているということに、気が紛れた。
いつもの路地裏に来ると、やっぱり雪はいて、
心なしか雪も喜んでいるように見える。
「今日はね、由実が__」
今日の出来事を話すのも、日課になった。
話している間は、静かに座ってくれる。
_どれだけ賢いのよ……_
「じゃあ、また今度雨の日にね。」
一通り話し終え、雪を一撫でした遙は立ち上がり、
雪にそう告げた。
その時だった。
「待って! 雪!」
キキーッ!
ドンッ
「遙……?」
「あぁ、由実。おはよう。」
「大丈夫? 顔色が悪いよ?」
「うん……大丈夫。気にしないで。」
翌朝。遙は朝早くから、机に突っ伏していた。
目を閉じると思い出すのは、昨日の光景。
雪は、いきなり路地裏を出た。
いつもお利口にしていたので、
遙は一瞬動きが止まった。
今起きたことを理解し、声をかけた時には。
原因は、雨でスリップした車と激突したことだった。
大雨で視界が悪くなったことも理由かもしれない。
真っ白な、雪の毛が、
どんどん赤く染まっていった。
桃色になった
静かに道路へ落ちていった。
「雪……」
外は、胸が苦しくなるほど潔い晴天。
数週間前までは喜んでいた筈の遙の心は、
真っ黒な、どす黒い雲で埋め尽くされていた。
「遙、大丈夫かな。」
日に日に顔色が悪くなっていく遙。
何も知らない由実は、只々見守るしか無かった。
*
5人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ