シラン ページ1
「今日はどこへ行こうか?夢主の好きなと場所にしよう」 と、貴方はいつも少し困った顔で私に尋ねる。残り少ないであろう私たちの時間を抱き締めながら… 「もってあと一年かと…」 突然のことだった。頭が真っ白になり、息ができない。昨日のことのように思い出せるあの日、私たち夫婦の時間は動かなくなってしまった。季節が進んでも、一度色を失った世界はどこまでもつくりものだった。時間が過ぎること、それは彼の死へのカウントダウンなのだから。あの日から貴方はよく喋るようになった。考えてみれば何時もそうだった。私が落ち込んでいるときは貴方は明るく振る舞い、私を勇気づけた。 「私が死んだら、夢主は悲しみに暮れるかもしれないね。私は君と会えなくなるのはとても悲しい…」 あまりに美しく、ひどく静かな夜のこと、死期を悟った貴方の言葉を逃さないように私は耳を傾けた。 「もし私が傍にいられなくなって、死にたくなっても、生きることをやめないで欲しい。貴方には私の分も生きていて欲しいんだ…私は夢主が隣にいてくれてとても幸せだった。ありがとう…」紡がれた言葉はあまりにも死を近くに感じさせた。 「まって…私まだ貴方になにも伝えられてない…!ずっと貴方と一緒にいたい、貴方がいない世界で私は……」 「約束、覚えているかい?貴方が私を忘れてしまっても貴方の幸せを願うって…夢主、先立つ私に貴方の未来の幸せを願わせてはくれないかい?」 「約束なんてずるいよ…そんなこと言われたらもっと悲しくなっちゃう…」 「ごめんよ…これが最後のわがまま………貴方と見た未来は明るかった、貴方は私の…」 星降る夜、私はあの人失った。 「今日も仕事だけど頑張るね。いってきます」 だいぶ色褪せてしまった貴方の写真のまえに今日もシランの花を飾った。 シラン――あなたを忘れない――
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作成日時:2020年11月29日 1時