逃亡 ページ5
私の手の中にはクシャクシャに丸まった紙と、薄暗い部屋の中で鈍く光る、錐が握られていた。
『ゆ…夢じゃ…なかった…』
私は脂汗を大量にかきながら、震える手で丸まった紙を開く。
するとそこには
【おはようA。
今日の夜二時にここへ。その錐は陽の光に当てないようにね。君が来てくれると願って。魘夢】
女性らしい、少し丸目の綺麗な文字が書いてあった。
(見た目だけじゃなくて、文字も女性みたい…)
しばらくその紙と錐を見つめていると、後ろで扉をノックする音がする。
コンコン
女「失礼します…もう起きていらしたんですね…!朝食をお持ちしました。」
私はサッと枕の下に紙と錐を隠すと、扉の方に目を向けた。
『きょ…ゴホッゴホッ!…今日は…あの子じゃないの…?』
昨日の夜、母に腕を引かれて部屋を出ていった彼女を思い出しながら、目の前の使用人に聞く。
女「あぁ。彼女なら…実家に帰りましたよ。確か母親が急に倒れたとかで…」
嘘だ。
彼女に母親は、居ない。
母親が死んで身寄りがない所を、母に拾われたのだ。
昔彼女が言っていた話を思い出しながら、考えていく。
彼女は、この屋敷ではかなりの古株だった。
良く私の世話をしてくれていたように思う…まぁ私は彼女の名前すら知らないが。
女「では私はこれで。何かありましたらお呼び下さい。隣の部屋に居ますので。」
そう言うと使用人は、扉の前で一礼して出ていってしまった。
魘夢の話が本当ならきっと彼女は、殺 されたのだろう。
この家のどこかにいる鬼によって。
『魘夢…』
私はぼんやりとした様子で窓の外を見つめながら、彼の名前を呼ぶ。
外でカラスが一羽、鳴いていた。
____
私は扉の中から左右を見渡して、人が居ない事を確認すると、廊下に出る。
静かに。
決して誰にもバレぬように。
使用人のいる部屋の前を通り抜けて、下の階へ続く階段を降りて、東館と本館を繋ぐ廊下を通り抜けて…
錐を握り締めながら。
深夜だから皆眠っていて、誰も居ないとは分かっているものの、私の心臓は母の言いつけや大人達の言いつけを破った事で大きく脈打っていた。
震える手で玄関の鍵をあける。
ここを出ればもう帰って来られない。
きっと母は朝起きて私が居なかったら、血眼になって探すだろう、もし捕まってしまったら…そう思うと膝から崩れ落ちそうになる。
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あじさい(プロフ) - REDさん» ありがとうございます!そう言っていたたげて嬉しいです!がんばります! (2021年1月4日 15時) (レス) id: 68023a472a (このIDを非表示/違反報告)
RED(プロフ) - 初めましてです。イラスト可愛いですね。これからも頑張って下さい。 (2021年1月3日 19時) (レス) id: 81d97b802d (このIDを非表示/違反報告)
あじさい(プロフ) - pookyさん» コメントありがとうございます!ご期待に添えるように頑張りたいと思います! (2020年12月29日 13時) (レス) id: 68023a472a (このIDを非表示/違反報告)
pooky - 面白いですね!続きが気になります!お体に気を付けてくださいね ! (2020年12月29日 9時) (レス) id: 012e567f90 (このIDを非表示/違反報告)
あじさい(プロフ) - 盃と餅さん» コメントありがとうございます!亀更新ですが、よろしくお願いします! (2020年12月27日 15時) (レス) id: 68023a472a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あじさい | 作成日時:2020年12月26日 2時