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好きだ、と
彼の低い声で優しく呟かれた言葉に、私の意識は止まる。
今、彼は何て言ったの?
再度その顔を覗き込むように目を合わせれば
彼も「言ってしまった」という顔をしている。
「キヨくん…」
「ごめん、こんな時に言うべきじゃないのわかってる。でも、我慢できなかった」
そう言うキヨくんは私よりも泣きそうな顔をして、ごめんともう一度謝る。
謝る必要なんてないのに。
キヨくんの言葉を聞いて、嬉しくないわけがない。
毎日ずっとしんどかった。少し冷静になれた今だからこそ彼から逃れる手段はいくらでもあったということも理解できているけれど、昨日までの私はその手段すら考えられないほどに精神的に憔悴していた。
間違いなく私を救い出してくれたのは、目の前にいるキヨくんだ。
「…嬉しい」
そう、嬉しくないわけがない。
好きに、なるなというほうが無理な話だろう。
けれどその「好き」という感情が
彼に助けてもらった感謝から来ているのか、友人としての好きなのか、異性として心惹かれているのか、そこまで自分の感情を見極められるほどの余裕を今の私は持ち合わせていない。
けれど、そんなことすらキヨくんはわかってくれているようで
「ごめんね、俺が言いたかっただけだから、気にしないで」と
優しく言葉をかけて頭を撫でてくれた。
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作者名:なちこ | 作成日時:2021年3月2日 4時