＊Love Sketchbook＊ (ページ12)

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溶けたアイス【S】ページ12

『今から行く』

シンプルなメッセージ。

『私も今から帰るよ』

同じくシンプルな返事。

でもそれだけで充分。

毎週末、うちに彼が来るようになってもう3年。
いわゆる『週末同棲』。

出会って9年、付き合うようになって5年。

私達は激しい恋をしたわけでも片想いの末に結ばれたわけでもなく気づいたら一番居心地の良い人といたという関係。

だから私と彼の間にドラマチックな事はないとどこかで思い込んでいた。

・

駅の改札を出たその先のコンビニ。
そこで彼はいつもお酒と私へのおやつを買ってきてくれる。

もう寄ったかな？
買い物中かな？
チラッとコンビニに目をやると窓側の雑誌コーナーの前に彼と私の知らない女の子が笑っていた。

推定23歳。
私は着ないような服、栗色の髪。
2人が笑う度その子の袖のフリルが揺れて栗色のロングヘアがくるんくるん跳ねる。
そして彼が身体をよじって笑い大きな身振り手振りで話し、そんな彼の腕にその子がタッチする。

確か、私の知っている翔はパーソナルスペースがしっかりとある人で簡単に自分の領域に他人を入れない人だった。

私とだってずっとその距離を崩すことなく彼の近くに入り込んだのはつきあってから。

そんな彼の懐にするんと入れるのは若いから？かわいいから？
…それとも特別な人だから？

しばらく見ていたけど2人の楽しそうな時間は終わるふうでもなく虚しくなってその場を去った。

・

家に着いて手洗いうがい、いつものルーティンをしても彼はまだ帰って来ない。
部屋着に着替えてもまだインターホンは鳴らない。
どれだけあの子と喋ってるの？
それともあの子とどっかに行っちゃった？

本当は彼の為にオムライスを作ろうと材料も用意していたのに全くそんな気持ちにならず静かな部屋の中で膝を抱えていた。

あれ？

私にもこんな気持ちがまだあったのかなぁ？

彼の事で心を掻き乱されたり誰かに嫉妬したり誰かに彼をとられるかも…なんて思ったこと無かったのになぁ…

なんで今まで『何も無い』なんて思ってたんだろ。

『何も無い』ことが当たり前でそれこそが私達の愛の形だなんて過信してたんだろ…

自分がこんなにも嫉妬深くて醜いなんて思ってもなかった。

こんな気持ちで彼に向き合っていいのかな…

頭が良くていつも先の事を見据えて計画立てて面倒な事は嫌いな彼なのにこんな私を見せたら嫌われちゃうかも…

そんなふうに初めて思った。