永遠に幸あれ【梅原裕一郎】

はじめての ページ42

．
．

「娘、パパって言ってごらん。パパ」
「……」
『ダメだね』
「今パパって聞こえなかった？」
『幻聴だよ』

娘がもうすぐ1歳になる。短い単語を話すようになってきたけど、「パパ」だけはまだ一度も聞いたことがない。

「ママは言えるのにパパって言えないことある？」
『女の子はそういう気分の時もあるんだよね〜』
「どんな気分だよ」
『ね〜』
「あっ、今の可愛かった」

最近修得した技『ね〜』は、首をこてんと一緒に傾げるというもの。ニコニコでやってくれるから本当に癒される。

「可愛いな、ほんと。もうすぐ1歳か」
『1歳だよ〜早いね』
「早い。本当に早い」
『これからもっと大きくなるんだよ、早いとか言ってらんないよ』

特に女の子だから色んなものに反応を示すだろうし、色んなことを経験するだろうから大人になるなんてあっという間だろう。

どんな友達をつくって、どんな彼氏が出来るのか今から楽しみ。彼氏というのは黙っておくけど。

『さ、ご飯の準備しようかな』
「まんま」
『そうだよ〜ちょっと待っててね』
「それは言えるのにパパは言えないの？」
「……」
『無言だね』

裕一郎が娘に「パパだよ、パパ」と教え込んでいる間に私はご飯の用意をした。

『用意出来たよ〜』
「ありがとう。はい、じゃあお座りしような」
『おててぱっちんして〜』
「いただきまーす」
『いただきまーす。はい、あーん』

パクパク食べ進めて今日はすんなり食べ終わりそう。
たまにぐずって全然食べない時があって心配だけど。

『今日いっぱい食べるねぇ、美味しい？』
「笑ってる」
『よかったねぇ〜、はいごちそうさまでした〜』
「おててぱっちんは？」
『…あれ？』

ごちそうさまのおててぱっちんが無い。
ずっと裕一郎を見つめている。

「どうした？」
「ぱっぱ」
「…え？」
『今パパって言った！裕一郎！パパって言ったよ！』
「げ、幻聴？」
『いや今度は本当！』

裕一郎が事実を頭に入れる前に娘がおててぱっちんした。ごちそうさましたみたいだ。

「今パパって言ってくれたの？」
『言ったよね！ね〜』
「あっ、今の可愛い。え、やばいこんな急なんだ」
『よかったね、ふふ。可愛い』

パパという言葉を発せた娘も、喜ぶ裕一郎もみんな可愛い。

ひょろっと男子→←包まれた手（リク）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す