君との関係【江口拓也】

35 会話 ページ35

「お二人はお付き合い
してるのかしら？」

「あー…えー」

「そうです。付き合いたてで」

初めての旅行なんです、と微笑む彼に
胸を痛めながら私も隣で微笑んで頷く。
お婆さんはそうなのね、と妙に静かな
トーンで頷いていた。他のも見ていい？と
言われ頷くと、彼は店の奥へと足を進めた。

「本当は何か別のご関係なのね」

お婆さんは2人になった途端、柔らかな
だけど芯のある声で私にそっと尋ねてきた。

「分かっちゃいます？
不倫とかじゃ無いんですよ」

「それは分かるわ…
あなた達綺麗だもの」

そのお茶碗と同じ、と言われ
お茶碗を見ると桜の柄が陽射しに
あたりキラリと光る。

「私たち…少なくとも私は
こんなに綺麗じゃないんです」

彼は綺麗かも、と言うとお婆さんは
ふふふ、と上品に笑ってあなたも
綺麗だわ、と言ってくれた。お礼を
言ってお茶碗を買うか悩んでいると

「また来て。
あなた達ならきっと来れるわ」

その時に買って頂戴、と有無を
言わさない様子で言われ思わず
頷いてしまう。何だか妙に説得力が
あって来るはずのない未来を
願っている自分がいた。

36 約束→←34 街歩き

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す