君との関係【江口拓也】

32 ただの私 ページ32

「本当は好きなんだー
江口のこと」

ポロリ、と口から零れてしまったのは
まだ寝ぼけている頭のせいなのか、
それとも彼の優しさに絆されて
しまったからなのか。

「ただの相島Aはね」

彼の誠実さに甘えていては
いけない、グッと込み上げてくる
感情に精一杯蓋をして、暗くなった
画面に映る彼に語りかける。

「声優としては付き合えないよ、
覚悟が無い。声優の江口拓也と
付き合うっていう覚悟が」

「うん、そっか…つまりAにとって
これは思い出作りなんだ」

「ふふ、伊達に一緒にいたわけ
じゃないね。さすが仲良し」

怒られたって文句を言われて帰る、と
言われたって別行動をすると言われても
仕方ないと思っていた。けれど彼は
やっぱり優しい。

「じゃあ良い思い出にしよう…
思い出した時に最高だった、って
手放しでいえるような」

「…お人好し、禿げるよ」

泣かないように精一杯強がって
こんなことを言っても、彼は禿げでも
ファンはいる、なんて力強く言って
またゲームを再開した。

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