初恋の人 その2 ページ3
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そっと靴を脱ぎ、足音を立てず気配まで消すつもりで2階の自室に向かって歩き出す。そして、なんとか自室にたどり着き、テーブルの上に置かれた財布を手に取った時だった。
「清水、好きだよ」
「……私も」
隣の部屋から聞こえた声に、酷く胸が締め付けられた。さらに、短い会話のあとには、姉の決して大きくはない嬌声と、菅原の囁くような優しい声。ベッドが軋む音に、荒くなった2人の呼吸。
(嘘、でしょ……)
本当はわかっていた。高校生という、限りなく大人に近い男女が、二人きりの空間で何をするのか。それでも、いざその場面に遭遇してしまうと理解が追いつかないのだ。僕は、音を立てないように注意しながらも、足早に家を出た。そしてまた、行くあてもなく歩き出す。
「壁、薄すぎだよ……」
ため息混じりに呟いたそんな言葉は、白い息と共に冬の空へ消えていく。
(やっぱり、菅原さんはお姉ちゃんのことが好きなんだ……)
当たり前のことだが、それは僕にとって、あまりにも辛い現実だった。涙が出そうになるのをぐっと堪えながら、先程買いそびれた飲み物を買いに自販機の前に立つ。100円玉を1枚と10円玉を3枚入れて、ボタンを押した。出てきたのはココアだ。
これは僕の昔からの癖だった。何か辛いことがあると、甘いものを食べたり飲んだりするのだ。普段は甘いものを食べたり飲んだりすることは無く、むしろ苦手な方なのだが、その時ばかりは、体が甘いものを欲しがる。というのも、幼い頃に僕が泣いていると、必ず姉がお菓子やジュースをくれたのだ。僕はその時に食べたお菓子が特別美味しかったのを今でも覚えている。きっと、この癖はその名残なのだろう。
僕は買ったココアを手に持ち、近くの公園へ向かった。たどり着いた公園は、休日にしては人が少なく、静かだった。誰もいないベンチに腰を掛け、ココアの缶を開ける。缶を口につけ傾ければ、口に広がる甘さと喉を通る温かさが、心を落ち着かせた。
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ハムちゃん大先生(プロフ) - 優麻さん» 了解しました!この物語中に織り交ぜたいと思います。今後の展開にご期待ください! (2020年1月1日 18時) (レス) id: 2a7a4ab774 (このIDを非表示/違反報告)
優麻 - ハムちゃん大先生さん» ぁ、あ、ありがとうございます!及川さんと岩ちゃんと三角関係が欲しいとか言っても…? (2019年11月19日 22時) (レス) id: fe7d430fbe (このIDを非表示/違反報告)
ハムちゃん大先生(プロフ) - 優麻さん» リクエストも募集しておりますので、こんな話が読みたい!という希望がありましたらなんなりとお申し付けください。リクエストは作中に織り交ぜたり、次回作の参考にさせて頂きますので、お気軽によろしくお願いします! (2019年11月19日 12時) (レス) id: 2a7a4ab774 (このIDを非表示/違反報告)
優麻 - ハムちゃん大先生さん» みぎゃああああああありがとうございます!楽しみにしてます!すごい分かります。どうしても悲恋が書きたくなるんですよね。私は書けないんですけど! (2019年11月11日 20時) (レス) id: fe7d430fbe (このIDを非表示/違反報告)
ハムちゃん大先生(プロフ) - 優麻さん» 木兎さんと国見くんもかっこいいですよね! 出来ればこの2人も、物語の中に登場して夢主くん達と絡むようにしたいと思います! (2019年11月10日 17時) (レス) id: 2a7a4ab774 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハムちゃん大先生 | 作成日時:2019年11月5日 22時