10. ページ10
『…ふぅ』
早めにお風呂に入って、冷蔵庫から取り出したビール。
外は寒くても季節関係なくビールは常備している。
余った材料で作ったツマミも一緒にテーブルに並べる。
テレビはつけず何年も部屋の隅に置いたまま。
プシュッと開けて喉に流し込むと一日の疲れも取れていく。
カバンから取り出した手帳。
昨日の続きを開いてペンを走らせる。
ここ数年毎日書いている日記。
最初は喫茶店の家計簿的な感じで書いてたけど、今はパソコンで管理してるから最近はただの日記になっていた。
こんなお客さん来たな、とか今日はこれが売れたな、とか毎日大きく内容は変わらないけど見返すとやっぱり積み重なったものがあるなと感じる。
今日は…
”これお気に入りだったんです。ありがとうございます”
頭に浮かんだあの安心した表情。
『深澤さん、だったっけ』
そういえばテイクアウト頼みたいって言ってたな。
何となくだけど、社交辞令かなと思う。
ピアスのお礼？に。
今時の感じだったしわざわざ裏通りの喫茶店に改めて来ないだろうし。
ふむ、と考えながらペンを握り直す。
『…ふふ。誰も見ないしこれでいっか』
”雨の日にやってきたピアスの彼はモンブランを美味しそうに食べていた”
何の小説の始まり？なんて一人ツッコミをしながら書き終えた日記を閉じた。
日記を閉じた後、寝室の隅に移動する。
棚の上に置いた小さな仏壇。
りんを小さく鳴らして手を合わす。
日記と同じくこれも毎日の日課。
『今日も無事に終わったよ、お母さん』
写真の中の母は優しく笑っている。
この写真を見ると、どんなに大変なことがあっても自然と笑顔になる。
”A。ほら、いーってして。
ふふ、上手”
小さい時からあまり笑わなかった私を見て、ほら笑ってごらんって両頬に指をさして笑っていたお母さん。
恥ずかしがる私を見て楽しそうに笑うんだ。
『…今笑っても、意味無いのにね』
呟いた声は静かな部屋の中に消えていった。
一息ついて、その日は早めにベッドに入った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1041人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mamemiya
| 作成日時：2023年1月29日 1時
