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初めてかもしれない。
お客様と会話のラリーが続いたのは。
頼んだモンブランを一口食べる毎にうまっとか、んーとか小さい声を上げている彼。
おっといけない。
つい見てしまっていた。
自分の仕事に戻ろうと、彼に背を向けて明日の仕込みの準備をする。
音楽と少しだけ聞こえる雨の音と彼の出す音。
不思議だな。
耳に心地良くその音が入ってくる。
しばらくすると、「ご馳走様でした」と後ろから聞こえた声。
深澤「モンブランめっちゃ美味かったです」
『良かったです』
深澤「あの、一つ聞いてもいいですか？」
席を立った彼とカウンター越しに向かい合う。
深澤「ここって、デリバリーとか頼めたりしますか？」
デリバリーって、配達の事だよね。
ただの町の小さな喫茶店にはにつかわない響きだ。
深澤「ここのコーヒー本当に美味いんで。
スタッフさんも喜ぶだろうなあって」
『スタッフさん？』
深澤「あ…いや、職場！自分の職場の人にも飲んでほしいなって思って」
急に何をそんな焦っているのか分からなかったけど、
ただデリバリーはさすがに厳しいというかそもそもやった事がない話だ。
『えっと、ごめんなさい。ここ私1人でやってるのでさすがに店を空けるわけにはいかなくて。ありがたいお話なんですけど』
深澤「そうなんですか！じゃあマスターさん？」
『はい。マスターって呼ばれる程の者ではないですが』
若い方だからびっくりしました、と思ったことをそのまま口にしている彼に不思議と嫌な感じはしなかった。
深澤「そっかぁ…あ！」
今度は大きな声を出すから思わずビクッとする。
深澤「例えば、事前に注文お願いして取りに来るっていうのは出来ますか？」
『あぁ、それなら。早めにご連絡頂ければ大丈夫だと思います』
深澤「やった。じゃあそうします！」
そんなにコーヒーの味を気に入ってもらえたんだろうか？私の言葉に嬉しそうな表情をする彼。
深澤「じゃあ電話番号聞いてもいいですか？」
『はい。ちょっと待ってくださいね』
常連さんに渡している自家製のスタンプカード。
何回か貯めると一杯無料になるもので、だいぶ前に試しに作ってみたもの。
確かカードの裏面に番号を書いてたはず。
あったあった。
『はい、こちらです』
深澤「あ…これ、ですね。ありがとうございます」
一瞬変な間が生まれたけど、特に気にせずカードを渡した。
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作者名：mamemiya
| 作成日時：2023年1月29日 1時
