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由樹「ほい」
『ありがと』
電車を乗り継いで由樹と二人やってきた久しぶりの光景。
少し丘を上がったところに広がる墓地。
由樹から受け取った蝋燭に火を灯し、二人並んで手を合わせる。
【北条 清子】
母の名が刻まれた墓石についた汚れを水で流していく。
綺麗にしたところで持ってきたお花を供える。
紫が綺麗に映える花、菖蒲(アヤメ)。
『お母さん、久しぶり』
ここにやってきたのは一年ぶり。
『冬だね。そっちは寒くない？』
由樹「多分あったかいんじゃね？母さん寒がりだったし」
『…ふふ、確かに』
私の横に同じくしゃがみ込む由樹。
そっと指で菖蒲を撫でる。
こうやって母の命日に近いタイミングで毎年由樹とやってくるお墓参り。
今年はまだ雪も降らず、天候にも恵まれて良かった。
澄んだ空気と開けた青空はまるでお母さんみたい。
再びそっと手を合わせて静かに目を閉じる。
ここでのこの時間の間、直接母と繋がれている様な気持ちになる。
『…ここでいつも思い出すのはお母さんの笑顔なの』
由樹「ん」
『今まで何回由樹に言ったか分からないけど。お母さんの最期の表情が思い出せないって』
由樹「多分100回位？」
『そんなに言ってないでしょ。笑』
二人笑いながら立ち上がる。
『最近はね、それでも良いかなって思えてきたの。お母さんの笑顔はちゃんと覚えてるから』
由樹「…ん。きっとその方が母さんも嬉しいと思うよ」
亡くなってからもう何年も経ってるけど、いつも思い浮かぶのは母の優しい笑顔。
お母さん似だって周りからはよく言われてたけどあの笑顔と自分はなかなか結びつかない。
由樹「そろそろ行くか」
『そうだね。…由樹、毎年ありがと』
由樹「何言ってんだよ。俺にとっても母さんなんだから当たり前だろ」
また今年も無事に来れて良かった。
そう思いながら来た道を戻っていく。
由樹「父さんうちでご飯作って待ってる」
『俊治さんの料理楽しみ。お魚かな？』
由樹「あの親父、魚しか食わねえからな」
本当はお花を供えたらそのまま帰る予定だったけど、たまたま今日仕事が休みという俊治さんにもこの後会う事になっていた。
『会うの久しぶりだからちょっと緊張するな』
由樹「大丈夫、全然変わってないから」
ここから近いところにある一軒家。
母と再婚する前、由樹が生まれ育った場所だ。
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作者名：mamemiya
| 作成日時：2023年1月29日 1時
