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かけていたメガネを外してカウンターに置いた深澤さん。
初めてその顔をちゃんと正面から見た気がする。
少しだけ目を擦ってパチパチとしている。
『…お疲れですか？』
深澤「いや、何か美味しいもの食べたら気が抜けちゃって」
その目は少し眠そうだ。
深澤「北条さんはずっとこのお店で働いてるんですか？」
『いや、ここ五年くらいですよ。それまでは普通に会社員だったので』
深澤「そうなんですか？どこで働いてたんですか？」
『テレビ局です。…ちょ、大丈夫ですか？！』
急に飲んでいたコーヒーを吹き出した深澤さん。
急いでお絞りを渡す。
深澤「え、ほんとに？」
『はい。今は全然テレビ見ないんですけどね』
深澤「…音楽番組とかも見ないですか？」
『音楽、もそうですね。最近の曲も全然詳しくなくて』
深澤「…だからか」
『え？』
♪♪〜♪
急になり始めた音楽。
深澤「あ…ちょっとごめんなさい」
『いえ。どうぞ？』
すみません、とお辞儀してスマホを片手に入口の方に向かった深澤さん。
ドアを開けて外で電話している様だ。
その間に食器を片付ける。
しばらくしてまた中に戻ってきた。
深澤「すいません。そろそろ俺行きますね」
ご馳走様でした、と荷物をまとめ始める深澤さん。
『こちらこそ、荷物運んでくださってありがとうございました』
入り口のドアを開けるとまだ止む気配のない雨。
『深澤さん、これ使ってください』
カウンターに置いていた傘を渡す。
深澤「え、でもこれ」
『柄物で申し訳無いんですけど。これはちょっと差し上げられないものなので、いつでも良いのでまた持ってきて頂ければ』
小さい花柄がプリントされた傘。
男性が使うにはちょっと可愛らしい模様だけど
この雨には代えられないし。
深澤「…ありがとうございます。あ、そうだ」
ポケットからスマホを取り出してこちらに向けた。
深澤「良かったら連絡先交換しません？
また来る時に連絡しますから」
フワッと笑う深澤さん。
”深澤 辰哉”
追加されたトーク画面。
深澤「また連絡しますね」
バサッと傘を差して雨の中を帰っていった彼。
『深澤…これ名前何て読むんだろう』
静かになった空間でカウンターに腰掛けながら
辰哉、と打って名前の漢字を検索する。
「…………え？」
でも、それがきっかけで彼の正体を知ることになるなんて思いもしなかった。
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作者名：mamemiya
| 作成日時：2023年1月29日 1時
