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『いらっしゃいませ』



お客さんと話すのは注文を受ける時と、お会計をする時だけ。


こういう個人経営の喫茶店だとマスターと客の距離が近いイメージを持たれるけど、それはマスターが話すタイプならという話。



好きに過ごして何時間でも居座ってもらって構わない。


でも、自分から話題を振る事はない。


ただ無心に手を動かして頼まれたものを差し出す。



そんな感じでやってるけど、意外にも常連のお客様は多い。


1人の世界に没頭するタイプの方ばかりで名前も職業も知らないまま何年も通ってくださる方もいる。


ご馳走様、とお店を出る後ろ姿を見ながらこのお客さんが来てるから今日は月曜日だったなとカレンダーを思い出したりする。





私にはこの時間のリズムが一番合っている。


自分のペースで、何も気にしないで。


好きなコーヒーの香りに囲まれて。






だから、想像もしてなかった。



雨が連れてきたあなたとの出会いで



少しづつそのリズムが変わっていくなんて。









「…こんにちはー」




少し店が落ち着いた夕方。



食器を棚にしまって振り返ると



『…え、大丈夫ですか!?』



店のドアからひょっこり顔を出した男性。



「いきなりごめんなさい。近くにコンビニも無くて。
…少しだけ雨宿りさせてもらってもいいですか」



その頭はずぶ濡れで、苦笑いでお辞儀をした彼。


ポタポタと濡れた前髪から覗く目。




少し待っててくださいと声をかけると不思議そうな顔をしたけどそんなのお構いなしにバックヤードに走った。

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作者名:mamemiya | 作成日時:2023年1月29日 1時

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