向日葵なんていらない【S.O】 (ページ26)

今日:21 hit、昨日:1 hit、合計:232,061 hit

25.にゃーご。ページ26

.

.

不思議だ。この道はさっき歩いてきた道と全く同じはずなのに、全く色彩が違う。

ミーンミンと鳴る蝉の声は同じなのに、さっきより切なく聞こえる。

ゆらゆらと揺れる陽炎に、澄んだ緑は痛みを私により一層与えてくる。

.

なんとなくふらふらと歩いて、結局辿り着いたのはヒマワリの近く。

戻ってきたのか、と苦笑を浮かべて近くのすっかり古ぼけたベンチに腰を下ろすと

.

「にゃんこすけ。…え、着いてきたの？」

.

にゃーご、にゃーご。私の足元に柔らかいほっぺをすりすりと擦り付けて目を閉じるものだから

なんとなく。なんとなく。そっと持ち上げて、自分の膝の上に乗せる。

するとにゃんこすけは気持ちよさそうに、ふわぁーあと欠伸をしてスヤスヤと眠りに就いてしまった。

.

.

動けなくなってしまった。どうしようか…と長閑な田んぼをぼんやり見つめて

そっ…とさっき櫻井さんに渡された向日葵の便箋を取り出す。

.

そこには達筆な文字で『Aちゃんへ』、『おっさんより』と書かれていて

封がしっかりとされている。

.

何が書かれているのだろう。怖い。

恐ろしさで開ける勇気がないけれど、膝の上でにゃーごと頬ずりをしてくる大野さんが最後に助けてあげたにゃんこすけを見ると

不思議と開けてみなよ、と言われているようで恐る恐る

.

「……」

.

その封を、開けた。

.

.