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__同時刻、警察署
｢…ふう｣
事情聴取も終わり、着信があったのか｢少し待ってて｣と部屋から出ていった塚内さん。
1人になったこの殺風景な部屋で、小さく溜息を吐いた。
｢…痛い｣
大袈裟に固定された右腕を擦りながらそう呟き、椅子の背もたれに寄り掛かる。
車がひっくり返る程の事故で、この程度の傷。
正直運が良いのだろうが、私が痛む理由は他にもあった。
｢っ…よりによってっ…｣
車での交通事故。
突然来るあの大きな衝撃、痛む体、何が起きたのか分からない戸惑い。
それらが思い起こさせるのはやっぱりあの日の交通事故で、震える手を強く握り締める。
もう誤魔化しようもないだろう。私はきっと今も、あの日の事故に囚われたままだ。
｢はあっ…、落ち着け…落ち着け…｣
大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせるも、正反対に心は乱れ、視界が徐々に歪んでいく。
正直、しょう兄と電話をしたあたりで既に泣きそうだったが、あの場でいきなり泣き出すのは如何なものかと我慢した。
そんな時、扉が開き顔を覗かせた塚内さん。
｢ごめんお待た…せ…っ…！緋龍さん！？どうした！？｣
最悪だ。
あまりにもタイミング良く瞬きと同時に頬を伝った涙。
肌に伝う暖かい感覚に、ああやってしまった。なんて他人事のような事を思い、誤魔化さなければと開いた口は私の思い通りには動かずに嗚咽だけを漏らす。
｢っ…ぅっ…｣
｢ひっ…緋龍さん？どこか痛むのかっ…？｣
大丈夫です。心配しないで下さい。
テンプレートのように染み込んだそれらのセリフも出ない程、今の私は精神的に限界を迎えているらしい。
訳の分からない感情。
ドス黒い何かが私の中に広がって、何もかも闇に染めていく。
私は何を悲しんでいるのか、何を痛んでいるのか。
この涙はなんの為に流しているのか。
自分の全てが分からなくなるような感覚に、吐き気を覚えた。
｢っ…ヴっ…！？｣
｢っ…！？緋龍さんっ！！｣
胃酸が逆流し、喉を焼くような嫌な感覚の後、抑えきれない感情が飛び出すように私は全てを吐き出した。
口内の気持ちの悪い感覚を朧気に感じながら、徐々に霞んでいく視界。
塚内さんの声が聞こえるが、返事をする気力も無い。
｢…ごめ……な……さ………｣
絞り出したか細い謝罪を最後に、私は意識を手放した__
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作者名：HamA | 作成日時：2021年10月9日 7時
