緋色 Part.9

今日:17 hit、昨日:2 hit、合計:19,906 hit

430. ページ30

.

『あっ、仕事だ。それじゃあ緋龍さん、またねおやすみ〜』

｢…えっ、あ、はい。お休みなさい｣

突然の遊びに行くよ発言から突然の通話終了。

最速の男だからって、何から何まで速すぎるのではないだろうか。

まあそんな文句を言っても仕方が無いと、彼との付き合いは短いけれど理解しきっている。

本当に読めない人だなとため息を吐き、ベッドの上で体勢を変えた時。ふわりと香る、いつもとは違う匂い。

｢…あ、パーカー｣

サイズの大きい、黒のパーカー。

先程、勝己に借りたまま返すのを忘れていた事を思い出し、これから返しにいくのもなんだとメッセージアプリを開く。

ホークス、しょう兄と名前が続いていき、その下にある勝己とのトーク画面を開いて『ごめん、パーカー忘れてた』と短い文を送りスマホの電源を落とした。

時計を見れば、時刻はもう2時になろうとしている。

明日…というか今日は午前は病院か。電気がヒーロー基礎学があると言っていたけれど、午前授業じゃない事を願ってる。

｢はぁあぁあー…。病院面倒臭いー…｣

何もかも自分の為なのだけれど、そう前向きになれないのが人間だ。

病院はいい思い出がない。

いい思い出がある人の方が少ないだろうけど。

__『お母さんっ！！お父さんっ！！』

__『い"やぁあっ！！ねえっ！！起きてよっ！！』

__『ひとりにしないでっ…』

忘れていた記憶が頭を過り、ズキリと痛んだ。

今になって何で、あの日の事をこんなにも思い出してしまうのだろう。

消毒の匂い、無機質な機械音、医者や看護師が急く足音。

泣き声が部屋を充満し、涙で大好きな2人の顔もまともに見れなかった。

辛い、苦しい、悲しい。

__『私も連れてってっ…！』

空へと旅立った2人にそう願った日もあったなと、自嘲気味に笑う。

悲しみにまみれ、何もかもが変わったあの日からもう4年。

｢…私、ヒーロー目指してるよ｣

仮免も取ったよ。

No.2ヒーローの所でインターンするの。

個性も、使うの上手くなったよ。

まだ1つ戻ってないけど、大丈夫。すぐ戻るから。

なんて1人で呟いては、虚空に消えていく。

何だか無償に寂しくなって、勢いよく布団を被った。

｢っ…｣

寂しくない、大丈夫。

滲む涙を拭いながら、私は眠りについた__

.