緋色 Part.9

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『A』

誰かに名前を呼ばれた気がして目を開ければ、視界に広がる懐かしい景色に一瞬呼吸を忘れた。

白い天井、視界の隅に見える色とりどりの花。

今私の座っている柔らかいソファ、これは確か、昔住んでいた家にあったものだ。

『A、起きて。ご飯よ』

｢…お母…さん？｣

鼓膜を揺らす柔らかな声は間違いなく母のもの。

まさかそんな筈は無いと勢いよく体を起こし、声の聞こえる方へ視線を向けた。

『なに…？どうかした？』

｢っ…｣

私と同じ黒い髪に、緋色の瞳。

特徴的な涙ボクロ、優しそうなタレ目。

｢お母さんっ…｣

母だ。

緋龍燈華(とうか)、彼女は私の母である。

今目の前に母がいるという事実に、嬉しいという感情だけが私を覆い尽くしていく。

然し、それと同時に突きつけられる、これが夢であるという事実。

『どうかした？大丈夫？』

｢っ…ううんっ…大丈夫だよ、お母さん｣

動揺を悟られないようにとソファから腰を上げれば、いつもとは違う景色に違和感を覚えた。

なんだろうか、視線の高さが低いような…そんな感覚を覚え目の前にあるテレビに反射した自分を見れば、そこにはおよそ4年ほど前の、中学に上がる前ぐらいの背丈をした私が写っている。

｢…なんで｣

『A、本当に大丈夫？具合悪いの？』

｢えっ…？だっ大丈夫だよ！…そ、それより、お父さんは？｣

何なんだこれは、本当に夢か？

そう思ってしまうほどのリアルな現状…というより、この状況を私は一度体験したことがあるような感覚に若干の気持ち悪さを感じる。

デジャブ…とは違うような、同じ出来事を繰り返しているような、不思議な感覚。

『お父さんなら__』

様子のおかしい私に違和感を覚えながらも、母は私の質問に答えようと口を開きかけた時。

遮るように、リビングのドアが勢いよく開けられた。

『ただいまっ…、燈華っ…少しいいかっ…』

額に汗を浮かべたスーツ姿の男性。

赤い髪に、緋色の瞳。

母とは真逆の猫目。

｢お父…さん…｣

緋龍紅一(こういち)、私の父だ__

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