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｢ってことで、これは貰いなさい｣
｢どういうことだよ…、いらねェ｣
頑なにクッキーを受け取ろうとしない勝己。
じゃあもういいよとその場で封を開け、クッキーを1枚手に取った。
香る甘い匂いに美味しそうと思いながらも、そのクッキーの運び先は私の口では無い。
｢食えっ！！！｣
｢んぐっ…！？｣
1枚でも食べてもらえればきっとあの子も報われる筈だ。
そう思い、私はそのクッキーを勝己の口に無理矢理ねじ込む。
彼の行儀の良さは知っている。
まさかここから無理矢理吐き出すなんて真似、絶対にしないだろう。
｢っ…！…おっまえっ！！何すんだクソが！！｣
｢女の子が頑張って作ってくれたもの無下にすんじゃないわよ！！｣
｢あ"あ"っ！？知らっねぇよンなことォッ！！｣
｢はあ"っ！？ほんっとに最低！！｣
女の子が誰かを思い、丹精込めて作ったクッキーが食えねェとはこの男、本当に有り得ない。
コイツ絶対バレンタインチョコとか貰った事ないだろ。
｢勝己さあ、せっかくイケメンなのにいっつも目釣り上げて怖い顔してほんっとに勿体ない。黙っときゃモテるのに｣
｢余計なお世話だわクソがっ！！｣
｢はあ残念！勝己イケメンなのにその良さを私しか知らないなんて！｣
もう話にならんと両腕を広げ、わざとらしく肩をすぼめる。
そのまま踵を返し教室へと続く廊下を1人で歩み始めた。
いつもならば｢俺の前歩いてんじゃねェっ！！！｣なんて怒号が飛んでくるところなのだが、怒号どころか足音の1つも聞こえない。
さすがに傷つけてしまったかと思ったが、彼はそんなにお豆腐メンタルでは無いだろう。
なら逆に怒り絶頂か？と恐る恐る後ろを振り返れば、ニトロの甘い香りがふわりと鼻を掠め、それと同時に視界を遮る彼の大きな手。
｢ぶへっ！！｣
突然の事に驚き、思わず出てしまった情けない声。
いや、突然顔面に手のひら押し付けられたらそりゃ誰でもこんな声が出るだろう、勘弁してほしい。
｢ちょっ…！なにっ！？｣
｢テメェだけ知っとればいいだろ｣
｢…え？｣
｢俺の良さなんてテメェだけ知ってればいいって言っとんだクソ｣
数秒の自失。
彼の言っている意味を理解した頃にはもう私の顔は真っ赤になっていた。
｢…それ、どういう意味？｣
｢そのまんまだ｣
｢勝己の方がよっぽどロマンチストジャン…｣
数日前の会話を思い出し、深く溜息を吐いた__
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作者名：HamA | 作成日時：2021年10月9日 7時
