157.もういいや ページ23
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離してしまった手は、もう一度。掴めばいい。
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“俺と付き合おう”という潤くんの言葉に頷いて、彼の手を掴んだのは1時間前。
それから涙が止まるまで、潤くんは他愛もない世間話をしてくれていて
ようやく泣き止んだのは5分前。
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そして、今。
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潤「シートベルトつけろよ」
「分かってるよ」
潤「チャイルドシートいる？」
「うるさいな！(笑)」
潤「あ、そこまで子供じゃなかった？」
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私は潤くんの車の助手席に乗り込んで、カチャとシートベルトを嵌めた。
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外はすっかり夜。夏の夜の匂いがした。
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潤「じゃ、動くよ」
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もうすっかり乗り慣れてしまった潤くんの車の匂いに、安心して「うん」と呟く。
そう、私の世界はここだ。
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木口先生と上手くいってるんなら、それでいいのに。せっかく二宮くんが幸せになれそうなのに
なんで嫌がるの。馬鹿じゃないの私。
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モヤモヤ、モヤモヤという気持ちを抱えて喉にまとわりつくのは車の冷房。
窓の外を眺めると、見慣れた景色がものすごい速さで過ぎていく。その景色に切なさを感じた。
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「ねえ潤くん」
潤「ん？」
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もう二宮くんとは必要最低限しか話さない。ならいいんじゃない。
もういいんじゃない。
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何を聞かされたって、私はもう二宮くんとは関係ない。
だって木口先生と付き合うんだから、彼は。
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信号が赤になる。止まれ、と誰かが私に指示を出す。
そんなん知らない。事故ったって知らない。
青を渡る気はない。
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「……二宮くんと、木口先生って何があったの？」
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もう弾かないと拒否したギター。
先生を見て涙を流した横顔。
不機嫌になるあの態度。
いつもつけてるヘッドホン。
女嫌いになった二宮くん。
人を引き寄せないようにまとったオーラ。
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もう諦めるから、最後に聞かせて。
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潤「……俺も、二宮サイドの事情は知らないよ」
「うん」
潤「あの二人はーーー…」
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潤くんがハンドルを切った。
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甘い石鹸の匂いがした気がした。
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