永遠の箱 (ページ10)

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酩酊のきみ / 藤堂平助ページ10

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お風呂から上がると、縁側で珍しくAさんが飲んでいた。髪を下ろして、楽な恰好をしながらのんびりと空を見上げている。俺もつられて夜空を見上げれば、そこには綺麗な三日月が浮いていて。彼女はきっと月をつまみにして酒を煽っているのだろう。そう簡単に予想できた。

「こんばんは、お隣いいですか？」

「うん？あ、どうぞ」

ひんやりとした風が火照った頬を撫でると気持ちが良くなる。今日は少し湯舟につかりすぎてしまったかな。縁にぶら下げた足を前後に動かしながら、隣で同じようにしている彼女を盗み見る。
彼女とは最低限の会話しかしないから、なんの酒が好きかはもちろん、どんな気分の時に酒を飲みたくなるのかも知らない。

これは、どぶろくかな？

「藤堂さんも飲みます？」

「僕はいいです、明日も早いんで」

「なら私ももうやめようかな」

「あはは、そんなこと言わずに」

ごくり。彼女の喉が鳴ったのが聞こえた。おいしそうにお酒を飲む人だな。なんだか俺も喉が渇いてきた。

「ねえ、やっぱり一口もらってもいいですか？」

「…え？」

「Aさんの飲みっぷり見てたら、僕も喉渇いちゃって」

「ああ、どうぞ」

彼女に一口注いでもらって、静かに乾杯、と杯をぶつけて口を付ける。ほのかな甘みとアルコールの香りに脳が刺激されるも、それは一瞬で。すでに風呂で温められていた俺の体はあっさりとそれを受け入れたのだった。もう一口。この独特の粒感が” 味 "なのだ。やっぱり酒は美味い。
酔いがすぐに回らないようにとちびちび飲む俺とは対照的に、男勝りにぐいっと煽るAさん。よく見れば顔は真っ赤だし、心なしか目も少し潤んでいてどこかうつろに見える。もしかして、あんまりお酒強くなかったりして？

「私も、朝早いので、もう寝ます」

「ああはい、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

丁寧にお辞儀をしたわりに、立ち上がったあとよろけて柱に頭をぶつけていた。思わず笑いがこぼれてしまったが、彼女は気にせず頼りない足取りで帰っていった。

「俺ももう部屋戻るか」

よいしょ、と腰を上げると、彼女がひょっこり戻ってきた。困った顔。何だろう？

「藤堂さん、私の部屋、分かります？」

もう一度噴き出す俺。呆れ半分、面白半分。今度からお酒飲むときは左之助さんじゃなくって、Aさん連れて酔わせようかな。彼女の細い肩を支えながら、そんな悪戯を考えた。

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