溶けた心臓 / 冴島大河 ページ16
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いつもは友達と来ていた神室町に、珍しく一人で来た。大した理由はない。少し背伸びしたかっただけ。そんなうかつな考えがすでに子供だったのかもしれない。
私は怖い顔をした男の人達に絡まれながら、じわりと熱くなる目頭をこらえて、必死に後悔した。
「ここら辺一人じゃ危ないよ?」
「そ、そうですね、あでも私、人を待ってて…」
「じゃあ俺らも一緒に待っててあげよっか」
有無を言わせずに肩を抱かれた。近づく香水の匂いと、慣れない男性の体にくらりと目眩がする。どうしよう、友達なんて来ないのに。嘘だとバレたら私はどこに連れられるのか。想像しただけで全身を鳥肌が駆け巡る。ああ、なんでこんなことになったのだ。
目だけで誰かに助けを求めようとするも、明らかな面倒事に首を突っ込みたくないのか、正常な人がいないのかどちらか判別はつかないけれど、そろいもそろってみんな顔を背ける。
ふと目に付いた、いかつい男性。必死になって男たちの腕を振り払い、その人の元に駆けつける。見開かれた瞳が私を捉えて揺れるが、彼は腕にしがみついた私の手を払おうとしなかった。
「お、遅いよ!変な人たちに絡まれちゃったじゃん!」
「ん?」
「あああの人たち…!」
後ろを指させば目に付いたらしく、ああと頷いた。だがすぐに「誰やお前」と首を傾げる。そりゃそうだ、赤の他人が知り合いを装っているのだから不審に思うのは仕方がない。でも今だけは許して欲しかった。助けて欲しかった。
「変な人って酷くない?俺ら一緒にオッサン待っててあげたじゃん?」
「カノジョ待たせたお詫びに金くれない?俺らちょーど今金欠でさ」
へらへらと笑って近づいてくる男たち。巻き込んじゃってごめんなさい。私、なんて最低なことをしたんだ。怖くなって男の人の顔を見上げると、彼はきゅっと唇を結んでいて。「下がっとき」とやんわり私の肩を押すと、一瞬で男たちをねじ伏せてみせた。
開いた口が塞がらない。瞬きをしている間に一体何が起きた?うまく言葉を出せずにいると、男性は優しく私の頭に手を乗せて少し厳しい顔をした。
「俺もやが、知らん男についてったらあかんぞ」
「ご、…ごめんなさい」
「家まで送ったるわ。案内せえ」
「はい…」
家に送ってもらったあと、風の噂で彼が東城会系のヤクザであり、同時に冴島大河という名前だったことも知る。
見かけに寄らず優しい人だった。その事実がじんわりと心を温めていった。
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やっち。(プロフ) - はじめまして!素敵なお話をありがとうございます!外部サイトのURLを教えて頂けると嬉しいです! (2021年4月15日 12時) (レス) id: ee2f2b070d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きい | 作成日時:2021年1月15日 1時