おかえりと笑えたら / 馬場茂樹 ページ11
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馬場くんとは、友達以上の関係だった。
中学生のころからの付き合いで、それは馬場くんが北海道に行ってしまうまで続いた。
『次いつ会えるか分からない。その間連絡も取れそうにない』
ごめんねと寂しくつぶやいた馬場くんは、綺麗な黒髪から一転、サッパリとした坊主になっていた。
元々私たちは恋人同士でもないんだし、一般的な友人っていうのはしばらく会えなくても平気なものだと思う。社会人になってしばらくしてからは馬場くんも忙しくなったらしく、会えないことが多かったし。
そう割り切った風を装っていても、普段とは違う馬場くんを目にしたら寂しくてたまらなかった。
「出張とかそんな感じ?」
「うん、そうだね。北海道の方で仕事があるんだ」
「…引っ越すの?」
「一回今の家は売って、会社の方で用意してもらった家に住むから…そんな感じ」
「そっか、大変だね」
「うん」
ぷつりと会話が途切れた。訪れる静寂。
なんの仕事をしているかは聞いたことがない。でも、何となく踏み込んじゃ駄目なんだろうなって察してる。馬場くんは器用に見えて抜けてるから。私に隠したいことがあると、露骨に誤魔化す。
長年の友人と思っている私にとってそれは胸が痛むことでもあったけれど、彼なりの親切と捉えたら責めることも出来ないのだ。
「東京から北海道って、遠いよね」
「簡単には会えない距離だよ」
「…分かってるもん」
何を言えばいいか分からない。素直に寂しいと言ったら正解なのか。頑張ってと送り出せばいいのか。そもそも、今の自分が普段と同じ態度で彼に接することが出来ているのかすら危うい。いつもみたいに笑って、軽口をたたきあって、じゃあまたと送り出せれば馬場くんは安心なのに。あまりにも暗く落ち込んだ気分のせいで、笑おうにもうまく笑えない。どうしたって泣き出したくなるのがバレてしまいそう。
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やっち。(プロフ) - はじめまして!素敵なお話をありがとうございます!外部サイトのURLを教えて頂けると嬉しいです! (2021年4月15日 12時) (レス) id: ee2f2b070d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きい | 作成日時:2021年1月15日 1時