さよならをただ、告げたくて【テニプリ/幸村精市】 (ページ26)

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｢翌々日くらいだったかな。突然、進行が早まったんだ。病気なんて予測できるものじゃないからね。仕方ないって、ちょっと諦めてた。｣

手足が動かなくなる感覚を未だに覚えていると、彼は小さくそう言った。

｢それからあれよあれよという間に集中治療室に入れられて、体中が固くなっていって……｣

彼はそこで言葉を止めた。その先の言葉は、私にすらもう聞かなくてもわかりきっていたことだった。

｢……知ってる？死んだ人って、最後の最後まで耳が聞こえるんだ。｣

彼が最後に聞いたのは、自分の名を呼ぶ仲間の声と、一際大きい切原の泣き声だったらしい。

｢いつかくるって、わかりきってたことだった。……でも、案外きてみると……すごく、辛くて悲しくてね……｣

頬に残った涙の痕のその上を、また透明な雫が伝う。

その姿に我慢できなくなって、私は彼の手をとろうとした。

それでも、いくらつかもうとしても、温もりは私の手に伝わってはこない。

｢……、本当に、触れない。死んだんだね、俺。やっぱり、死んでるんだね……｣

｢っ……｣

こんなにもすぐそばにいて、ちゃんと息をしてるのに。

普通の人間と同じように涙を流し、微笑み、悲しむのに。

どう見たって本当の人間なのに。それでも彼は、私にしか見ることができない“幽霊”なんだ。