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背後に、気配は感じられなかった。
またあのマイペース野郎はどこかに行っているのだろう。でも、それでも好都合だ。
これなら、もう少しだけ姉貴に問い詰めることができる。
｢……どんな人？｣
｢聞きたい？｣
仕方ないわね、と言って姉貴は口を開いた。
いつもみたいなおっとりした口調じゃなくて、どこか沈んだような声で。
｢その人ね。中学の時に、テニス部で部長をしてたんですって。その人が部長で、真田くんが副部長。そう……真田くんの幼なじみだったって聞いたわ。すごく強かったそうよ。真田くんですら勝てなかったんだって。｣
｢ふーん。……真田だっけ、そいつがどんだけ強いかはわからないけどさ……でも、そんな強いならなんでこのテニス部にいないわけ？外部受験でもしたの？｣
｢違うの。……亡くなられたんだって。高校に上がる、ほんの少し前に。気の毒な話よね。｣
｢……｣
右手首が、痛い。氷を当てすぎて、逆に痛くなったんだきっと。
私はなに食わぬ顔で氷のうを外すと、それをまた姉貴に返した。
｢……もう平気。腫れもひいたみたい。ありがと、姉貴。｣
｢え、あ、A……？｣
｢……それと、なんかごめん。変な話させたっぽいし。……私帰るね。姉貴も、マネージャー頑張って。｣
｢……ええ。ありがと、A。｣
姉貴はこの重たい空気を取り繕うように、優しく笑った。
私はその笑顔に背を向けて、静かに救護室を出ていった。
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作者名：幻想曲 | 作者ホームページ：http://uranai.amanoboru
作成日時：2015年6月13日 18時
