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｢……切原、｣
ホースを下ろして、切原に近寄る。こんな姿の切原なんて、私は今まで見たことがなかった。
｢……ねえ、泣いてんの。｣
｢……｣
｢切原。｣
｢……｣
多分、泣いてる。……先生に怒られて半泣きになってんのは見たことあるけど、こんながっつり泣いてるのは初めて見た。
その時。不意に、意識が遠くなる感覚に襲われた。
……あ、やばい。もしかして、これ。
｢……赤也……｣
私じゃないような声でこぼれ落ちた、切原の名前。途端に切原は、目を真っ赤にしたままこっちを向いた。
｢っ幸村部長！｣
｢！｣
瞬間、また意識がはっきりする。……あーあ、また乗り移られた。
｢……あれ……部長は……？｣
｢……切原、何言ってんの。部長はあんたでしょ。｣
何も知らないふりで、そう返す。切原は我に返ったかのように目を見開くと、またそっぽを向いた。
｢……ねえ切原。｣
｢なんだよ。｣
｢あんたの言う、その、幸村部長って……誰？そんなに私と似てるの？｣
｢……似てねーよ。お前より幸村部長のがずっとすげーし。｣
｢じゃあなんで２回も私と幸村部長って人を間違えんのよ。｣
｢……｣
どんな人なのか、知ってるっちゃ知ってる。だって、多分今も私の後ろで笑ってんだろうし。
でも、人柄とか全然知らないし、本人も語ろうとしないから。それだけは、聞いておこうと思った。
私の問い詰めに堪えたのか、切原はこっちをまた向くと赤い目をこすってゆっくりと口を開いた。
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作者名：幻想曲 | 作者ホームページ：http://uranai.amanoboru
作成日時：2015年6月13日 18時
