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Aside
『ふーん……』
腑抜けた私の返事を聞いて、彼はこちらを見た。
「お嬢さんには難しすぎたか」
『ちゃんと理解した。要するにあなたは私をその推理練習の実験台にしたのよね。
けど推理をしてどうなるの?確かに人間観察は面白いし、色んなことに役立つが推理だけじゃ足りない。それを裏付ける証拠がないと裁判では全くの無意味よ』
「ほお……君は物知りのようだ」
それに私だってそれくらいの推理ならできる。
目の前に座る彼を頭の先からつま先までじっくりと観察する。
いつも同じの黒キャップ。
無地で飾り気のない、安物のTシャツに使い古したジーパン。
その割には上等な靴。
中古で買ったような古びたアコーディオン。
見た目の年齢的に大学生。
時間をかけて念入りにチェックする夕刊と、一杯のコーヒー。
そして煙草に混じって香る微かな硝煙の匂い。
『あなたは日本からアメリカの大学に留学しにきた。家族からの仕送りはなくそのアコーディオンを使ってお金を稼ぎ、食費を切り詰めて生活している。
いつも同じような服装をしているのは単に新しい服を買う予算がないからか、動きやすいからか。おそらく両方でしょう。
伸びきったジーパンと、貧乏の割にはいい靴を履いていることから、普段は立ち仕事。頻繁に靴が痛むから、買い換えるのよね。それに安い靴は足が痛くなるから少し値の張るもの。
毎日欠かさない新聞チェックから世の中の動きに深い関心があり、推理好きなことから目指している職業は探偵や警察関連。また硝煙の匂いから銃の扱いの練習もしていることが予測され、そこから警察関連の職業の線が濃くなる』
コーヒーのカップを口元へ運んでいた彼の動きが止まる。
伏せられていた青年の瞳がゆっくりとこちらを向いた。
先程よりも鋭くなった目線。
朗らかな笑みが消える。
それは静かな森の中に自分以外の何者かの気配を感じ取った時の緊張に似ていた。
「……お嬢さん、君は一体?」
『AA。15歳の高校生、大学の講義にも出てる』
「飛び級か、納得だ」
『あなたの名前は?』
「赤井秀一」
そう名乗った青年は、少しばかり緊張を解いて煙草に手を伸ばした。
ゆらりと一本の煙が立ち上がる。
まるでそれは、森林が業火に包まれる直前の火の気を示しているようだった。
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greenthemumkiku(プロフ) - すごく...すきです、、更新、待ってます、、!!!!はよ赤井さん出てくれぁえええ、!! (2022年3月27日 23時) (レス) @page29 id: c57106f8c4 (このIDを非表示/違反報告)
白ウサギ(プロフ) - 稲荷さん» ありがとうございます!まだまだ書き始めたばかりですが、できる限り更新できるよう頑張ります! (2022年2月17日 21時) (レス) id: b629e84f8a (このIDを非表示/違反報告)
稲荷(プロフ) - 続き楽しみです! (2022年2月17日 21時) (レス) @page10 id: d01056f976 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白ウサギ | 作成日時:2022年2月15日 20時