餓狼 【名探偵コナン】

14 ページ14

ジェイムズside






腕の中で静かに寝息を立てる少女の頭を撫でる。


どうやら泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。


しばらく彼女を抱えたまま、トントンと一定のリズムで小さな背中をさすっていた。


お兄ちゃんに会いたい。


小さな声ではあるが、彼女はそう言っていた。


寝言でも兄を呼んでいた。





頭の中である仮説が組み立てられる。





深夜のオフィスに鳴り響く一本の電話。


声変わりをしていない男の子の助け。


男の子の声変わりが起こるのは平均で14歳くらいだといわれている。


もちろん個人差はあるが、その電話の男の子は丁度
少女の兄にあたる人物の年齢と同じくらいではないだろうか。





もしも少女の兄が電話をかけてきたのなら。






……深く、ため息をつく。


既に電話があってから一週間は経過している。


逮捕後、自決してしまった組織の一員である人物の渡航歴は未だにわかっていない。


人身売買をしていたことからきっと密航していたのだろうから、そもそも記録には残らない。


もしその人物が少女を買うために日本へ行き、


荷物の発注をして先にアメリカへ帰ってきていたのなら。


その人物がアメリカへ帰る直前に少女の兄が携帯を盗み、助けを求めてきたのなら。


その後少女は手筈通りにアメリカへ送られ、我々FBIに保護されたのだというのなら。







少女の兄が生きている保証は、もうできない。







今までにもいくつか事例はあった。


売られるために育てられる子供たちの収容所。


酷い生活と強いられる労働。


子供たちを支配する組織の人間は嫌う。


子供が大人に反抗することを。


もし反抗した子がいたのなら、処分することだって……。








ああ、何も考えたくはない。







今は少女を抱いて眠ろう。


少しでも彼女が安心できるように。


少しでも彼女が、



心から笑える日が来るように。

15→←13

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す