二十九話 帰り道 ページ29
それから宿で手続きを済ませ、朝ごはんを食べて、やっと帰りの馬車に乗り込んだ。移動の際は、手を繋いでいたのだが、
「段差に気をつけてくださいね」
「荷馬車が通るので、こちらへ」
「あ、昨日の雨で道が泥だらけ……ゆっくり行きましょう」
と、なんだか恋人同士というか介護のようである。グレンさんも足元が見えないのでなんだかフラフラしているし、少しでもはっきり見ようと眉間にシワをよせ目を細めている。最初のドキドキはどこへやら。でも、この状況をなんとなく楽しんでいる自分がいた。
「ずいぶん遅くなっちゃいましたけど、あちらは大丈夫でしょうか」
「大丈夫でしょう。昨日の雨はずいぶん広い範囲で降っていたそうですから、察してくれているかと」
他愛もない会話をしながら外を見る。しだいに遠ざかっていく王都になんだか寂しい気持ちになる。予想外に長引いてしまったお出かけも今日で終わりなのだ。久しぶりの王都に初めてのサーカス。美味しいものもたくさん食べたし、珍しいものもたくさん見れた。それに、何よりグレンさんといっしょにそれらを見れたこと、彼の傍にいられたことが嬉しくて、なんだか夢見心地だった。嘘みたいに楽しくて、忘れられない、忘れたくない二日間だった。
ふいに視線を戻せば彼と目が合った。
「いろいろありましたけど、楽しかったですね。いっしょに来てくださってありがとうございました」
「……楽しかった、ですか？」
「ええ、とても。グレンさんは？」
尋ねれば、少し間を置いてグレンさんは口を開いた。
「正直、自分はこういう体験をしたことがなかったのですが、悪い気はしませんでした。……その、楽しかったです」
「本当ですか！よかったです！」
私ばかり楽しんでたから、どう思っていたのか少し不安だったけど……楽しんでくれたのならよかった。なんだか嬉しくなってニコニコと頬が緩みっぱなしである。
「……自分は仕事上、休暇なんてめったに取れませんが……もし、機会があれば、また」
瞬間、馬車がガタガタと大きな音を立てて揺れる。足場が悪いところを通ったらしい。
「さっき、何か言いました？」
「……いえ、なんでもありません」
少し気になったが、それっきり会話は終わってしまったので私は新しい話題を投げかけた。
そうして、昨日の雨の影響か、少し状態の悪い道を抜け、ようやくルズベリー伯爵領に着いたのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お芋(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» コメントありがとうございます。お褒めの言葉、大変嬉しいです！嬉しすぎて小躍りしてしまいました……本当にありがとうございます！これからも更新頑張ります！ (2019年11月25日 23時) (
レス) id: 105c0e2da2 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - 初コメ失礼します、続編おめでとうございます！臨場感あふれる文章から伝わる伯爵家のキャラの濃さや、執事・使用人陣のよさ、なんといってもソフィアちゃんとアリスちゃんの可愛らしさにいつも癒されています(*^^*)これからも更新、陰ながら応援させていただきますね！ (2019年11月25日 22時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お芋 | 作成日時：2019年11月25日 20時
