二十三話 手 ページ23
私は鍛錬場を出てから少し離れた木の下に下ろされた。まだ歓声は聞こえてくるが、剣の音は響いてこない。
呼吸はまだ落ち着かず、手も震えていたが、彼が背を撫でて、手を握ってくれた。
「大丈夫ですから。ゆっくり息を吸って、吐いて……」
そうして声をかけてくれているうちに呼吸は正常になり、震えも治まった。ひどい顔をしているだろうが、お礼を言わなければ、と顔を上げる。
「……ありがとうございます、グレンさ……っ!?」
顔を合わせた途端、緊迫した表情から安心した顔になり、力が抜けたように私の肩へ頭をやった。まるで抱きつかれているようである。突然のことに戸惑いを隠せないでいると、
「よかった……よかったです……」
そっと呟くようにグレンさんは言った。
「遅れてすみません……正直、あなたがこれほどひどい状態になるとは思いませんでした……気づけずにいて申し訳ありません……」
「だ、大丈夫ですよ!グレンさんが来てくださったおかげで本当に助かりました……私も自分があそこまでなるのは久しぶりだったので……本当にありがとうございます」
肩越しにそう言葉を交わす。子供の頃はよくこういうことが起こったが、成長してからは減っていった。今回のは本物に限りなく近いモノを長い時間感じてしまったのがいけなかったんだろう。
それにしても……
(グ、グレンさんどうしたんだろ……)
依然として肩に頭は置かれたままだし、なんなら手も握られたままである。それを意識し出すと、自然と顔に熱が集まっていく。この場を離れてしまいたいような、離れたくないようなそんなジレンマに囚われながらもようやく声を発した。
「グレンさん、そろそろ戻りたいです。私、試合を見届けないと」
「何を言ってるんですか、あなたは」
ようやく顔を上げたグレンさんはいつものグレンさんだった。安堵しつつも、少し寂しい気がする。
「あの場に入れば、またこうなるのはわかるでしょう」
「でも」
「『でも』じゃありません」
エヴァンくんに決断を促したのは私だ。私が見届けなければ、エヴァンくんに申し訳ない。
私がなかなか折れずに渋っていると、グレンさんはため息をついて言った。
「わかりました。ですが、自分から離れないように。またあの症状が出ればすぐにあの場から立ち去りますからね」
「ありがとうございます!」
そう答えると、鍛錬場へ手を引かれた。
……そういえば、私たちはいつまで手を繋いでいるんだろう。
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作者名:お芋 | 作成日時:2019年10月16日 21時