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七話 感情 ページ20

「……その時は兄が男に飛びついたおかげで、狙いがズレて助かったんです。騒ぎを聞き付けた近所の人も駆けつけてくれたし、巡回していた騎士の方々のおかげで被害は大きくなりませんでした」

グレンさんは黙って聞いていた。

「それから刃物を触るのも、見るのも怖くなったんです。あの時の光景が頭の中に浮かんで離れないんです。定食屋なのに包丁も怖くて握れないから兄に任せっきりで。食事の時のナイフも、手紙を開くペーパーナイフもどうしても怖くて」

……なんでグレンさんにこんなこと話しちゃってるんだろう。黙って聞いてくれてるけど……

「すみません。急になんか話しちゃって。あ、髪の毛ありがとうございます!お上手ですね」
「まあ、アルバート様が女装する時に時々手伝わされてますから」

そう言ってグレンさんは、私の手の中にあったカチューシャを取り、私の頭に付けた。

「そういう事情があるならどうして剣を扱う鍛錬場などにのこのこ出向いたのですか」
「そ、そうですよね……考えが足りませんでした」
「全くです。アルバート様との時もそうですが、あなたは危機察知能力が不足しています」

また叱られる……そう思った。しかし、グレンさんは私をじっと見つめて、言った。

「ですから、困ったことがあったらすぐに言ってください。傷ついたことがあったら相談してください。……エマとかに」
「……そこは、話の流れ的にグレンさんじゃないんですか?」
「自分では相談にのられても適切な言葉は与えられないと思います」
「今はちゃんと与えてくださったじゃないですか」

思わずくすくす笑ってしまう。グレンさんは「どうして笑うんですか」とどこか不機嫌そうだ。
……エマさんはあんなこと言ったけど、よくよく見ると感情の変化がわかる気がする。もしかすると、グレンさんは真面目で不器用で、案外優しい人なのかもしれない。

「話、聞いてくれてありがとうございます。少しスッキリしました。休憩時間もそろそろ終わりますしこれで失礼します」
「いえ。アルバート様には『剣での試合などといった物騒なものを怖がる女性もいるのだ』という程度に言っておきます」
「ありがとうございます。それでは」

お辞儀をして顔を上げると、グレンさんはいつも通りの無表情だった。

八話 兄からの手紙→←六話 あの日のこと



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設定タグ:使用人 , メイド , 貴族   
作品ジャンル:ラブコメ, オリジナル作品
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お芋(プロフ) - シャル@如月唯奈さん» 読んでいただいて、ありがとうございます!お褒めに預かり光栄です!頑張ります。ありがとうございます!! (2019年9月18日 19時) (レス) id: 105c0e2da2 (このIDを非表示/違反報告)
シャル@如月唯奈(プロフ) - イベント参加ありがとうございます!早速読ませていただきました!凄く分かりやすくて良い小説ですね!何より主人公かわいい(*≧з≦)これからも更新頑張ってください〜 (2019年9月18日 19時) (レス) id: 0214723abe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:お芋 | 作成日時:2019年9月6日 17時

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