五話 走る ページ18
「これより、試合を始める！」
審判の掛け声と共に試合が始まった。アルバート様もその相手もそれぞれの剣を抜く。
瞬間、身体に悪寒が走る。冷や汗が止まらない。息が荒くなる。剣の交わる音が響く。剣先から目が離せない。
頭の中に響く音が止まらない。剣の交わる音、何かが破壊される音、人々の悲鳴、怒号……。
頭の中を過ぎるあの日のことが忘れられない。荒れた室内。目の前で飛び散る赤、赤、赤。目の前に転がる肉の塊。
「相変わらずすごいな……っておい、大丈夫か？顔色が悪いけど……」
エヴァンくんが心配するように顔を覗き込んだ。その瞬間、遠くに行っていた意識が戻る。
ここにいたくない。早く、早くどこかに行かないと。
「試合途中にごめんなさい。他にも届けなきゃならない手紙があるから。アルバート様をお願い」
「え？ちょっと、おい！」
私は椅子から立ち上がり、鍛錬場を出る。外からも聞こえるくらい興奮した男達の歓声が響く。
その声を振り切るように走った。聞こえなくなるまで走った。嫌なものを振り切るかのように走った。
その時、突然腕を掴まれた。
「何やってるんですか。はしたなく走り回って。アルバート様は一緒じゃないんですか」
グレンさんだった。いつも通りの無表情でこちらを見つめる。
「グ……グレンさ……」
「……とにかく、どこかで落ち着きましょう。使用人たるもの身だしなみはきちんとしてください」
腕を掴まれたまま、どこかに連れていかれる。相変わらず歩くスピードは早いし、腕の引きが強引だけど、いつも通りのグレンさんの様子に少し落ち着いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 11人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「オリジナル」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お芋(プロフ) - シャル＠如月唯奈さん» 読んでいただいて、ありがとうございます！お褒めに預かり光栄です！頑張ります。ありがとうございます！！ (2019年9月18日 19時) (
レス) id: 105c0e2da2 (このIDを非表示/違反報告)
シャル＠如月唯奈(プロフ) - イベント参加ありがとうございます！早速読ませていただきました！凄く分かりやすくて良い小説ですね！何より主人公かわいい(*≧з≦)これからも更新頑張ってください〜 (2019年9月18日 19時) (レス) id: 0214723abe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お芋 | 作成日時：2019年9月6日 17時
