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長居するつもりは全くなかったから、と苦いお茶を喉に嫌々ながら流し込んだ。
残して立ち去ろうとしたけど、「僕の淹れた茶が飲めないのかい？頭が高いぞ」と意味わからない事言われた。
しかし意外だった。邪眼工場に入った僕を追い払いもせず接待じみた何かまでしてくるとは。
淑女や公子から僕の事について何も聞いてないのかな。
ファトゥス同士が仲悪いのは知ってたいたし、まぁいいかと席を立った。
「おや、もう帰るのかい」
「うん。割と収穫もあったし、君とも話せたし」
「ふぅん…ところで神柱。僕が何の見返りも求めずに君を通して茶まで飲ませたと思うかい？」
「…やっぱり？」
「ふふ、察しのいい奴は好きさ」
前言撤回だ、最初から散兵は僕に何かしらを要求するつもりでわざと通したらしい。
それもそうか。相手はファトゥスだし、利用できる物はとことん利用するだろう。
「で？何が欲しいの？」
「君の毛髪さ。数本で構わないよ」
「…散兵ってそう趣味があったりする、のかな？」
「違う！勘違いするな、これは博士からの要求だ」
「博士…？僕を実験したいとは聞いてたけど…毛髪でいいんだ」
「え、要求すれば君は実験に参加するのかい？」
「そんな訳ないじゃん、神柱の実験なんて禁忌だよ」
それも大罪レベルの、と言えば目の前の彼はとても面倒そうな顔をしていた。
ちょっと揶揄い過ぎたかな、と毛髪を数本引き抜いて手渡した。
散兵は少し嬉しそうに、満足そうにそれを握りしめた。
「要求通りにしたし、もう帰っていい？」
「あぁ、構わないよ。おいそこのお前」
「ひっ、はい！お呼びでしょうか執行官様！」
「神柱を出口まで案内しろ、無能な君でもそれくらいはできるだろう」
散兵が呼びつけたのはデットエージェント、とファデュイ内で呼ばれているのを見た事がある結構強い子。
いくつかの小隊を引き連れているのを見た事があったけど、こんなに怯えるなんて散兵は扱いが雑らしい。
礼儀正しくしっかりと返事をした彼を散兵はウザったそうにあしらっている。
ファデュイって実力主義を現した所だなと改めて理解する。
「それじゃあね散兵」
こちらに、と示された方に向かおうとすると散兵が「ねぇ、」と引き留めてきた。
「神が下々の者に力を与える理由、君のおかげで早く解明できそうだ」
「…どういう事？」
「ふふ、何でもないさ。いずれ分かる事だからね」
そう不敵に笑って散兵は部屋の奥に引っ込んでいった。
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作者名：光 | 作成日時：2023年9月17日 22時
