赤は取り乱す ページ30
彼の手から逃れようと身を引こうとするも、強い力で手を握られているため、逃げられない。
より一層力が込められ、痛みが走る。
「二重スパイ…する気だったんでしょう？」
鼓膜を刺激する甘い吐息。するりと頬をまるで蛇のように這う色黒の手。
毒牙にかかった子兎はただ目の前の死を待つのみ。
「何の話ですか」
「ははっ…Aさん、いくら隠そうと無駄です」
甘い酒の香りを放ち、脳をじっくり溶かしていく。正常な判断はさせまいと、妖しげなスカイブルーの瞳が私の瞳を覗く。
スカイブルーを背景に怯えきった私は震えていた。
「貴女の恋人は」
『隠していることがある。』
「やめて……」
「貴女のせいで」
『辛い時に、君といると…』
「嫌っ…」
「貴女の目の前で」
『ずっと一緒にいれたならって』
「やめてよっ……！」
「殺されたんですよ」
『結婚してくれ』
「だから……」
「やめてって言ってるのが分からないの！？」
あの人の綺麗で透き通るようなコバルトブルーの瞳が真っ赤に染る。
紅く
緋く
朱く
赤く
「忘れ…させてよっ…！」
彼の胸ぐらを掴み、懇願するように揺する。
腹の奥底が燃えるように熱い。
体中の血液が頭に登っていく。
鼻から血が垂れて、彼の服に落ちる。
憤怒、後悔、焦燥、敵意、嫉妬、悪意
頭の中は負の感情で満たされ、目の前にいる敵をどう排除しようか、消してしまいたい衝動にかられた。
抑えようとしても、どうしようもなく溢れ出てくる。
酷く歪んだ醜い感情。
それと同時にあの人と目の前にいる敵が重なった。
突然の既視感に、服を掴む力が抜ける。
力が緩むと、涙腺が緩んだ。
ポロポロと溢れ出す涙を力が入らない手で懸命に拭い続ける。
袖に鼻血がつこうと、涙で濡れようと、私の中の気持ちはいつまでも落ち着かない。
あの人が死んだのは私のせいじゃない…
どうしてそんなこと言うの？
私のせいなら、あの人はどうして私と一緒に居たいなんて言ったのよ…
「なんで、アンタが、そんなこと知ってんのよ。」
「彼は」
ぼやけている視界に映るのは唇を噛み締めている男の姿だった。
私と同じ、憤怒と後悔の間に挟まれている。
そんな表情をして、呟いた。
「僕の、部下だったからな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 51人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白亜(プロフ) - 深月さん» ありがとうございます！頑張らせていただきます (2018年12月4日 19時) (
レス) id: f49322fecc (このIDを非表示/違反報告)
深月(プロフ) - このジン好きすぎる！笑 続き楽しみにしています！ (2018年12月4日 11時) (レス) id: 8705ebf4fc (このIDを非表示/違反報告)
白亜(プロフ) - りずりさん» コメントありがとうございます！頑張りますw (2018年11月10日 15時) (レス) id: f49322fecc (このIDを非表示/違反報告)
りずり - 続きが楽しみです！頑張ってください(●･ω･●) (2018年11月10日 14時) (レス) id: f9e3d4f71f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白亜 | 作成日時：2018年10月7日 10時
