赤は黙る。 ページ25
子供たちが帰ったあとも、私はただ黙って紅茶を飲んでいた。
話すタイミングもそうだが、言うべきか否かもわからない。正直、甘えることはあまりしたことがないし、彼から言わせればきっとそんなこと聞かされてもと迷惑そうな顔をしそうだ。
ぼんやりする頭の中で浮かぶのは、しがみついてくるあの人の顔。
あんな悲しい顔、初めて見た。
ああ、そんなに私と離れ離れになるのが嫌だったのかな?それはそれで嬉しいけど…
血は、嫌だなあ…
ちょっとだけ沖矢昴氏が気になって、顔を上げると、沖矢昴氏じゃない赤井秀一氏が煙草を吸っていた。
「すまない、煙草は苦手か?」
私の視線に気づいた赤井秀一氏は口に咥えていた煙草を手で持って、ハッキリとした口調で言った。
「いえ、気になりませんよ。そういえば、赤井秀一氏は恋人とかいたんですか?」
「ああ」
「……あ、いたんだ。」
顔色も変えず、大人の余裕をかます赤井秀一氏のことだから、居るとは予想していたが、あっさりと答えるとは思わなかった。
だが、ほんの少しだけ雰囲気が悪くなった気もした。聞かれるのは嫌だったか。
「そういう君こそ、恋人はいるのか?」
そうだ、私の聞き方は、過去形だった。
今は居ない。
でも、前はいた。
赤井秀一氏はそう言った。
「誰も届かない場所へ行きました。私を置いていったんです。酷いですよね。」
挙げ句の果てに早く来てくれなんて、場所も言わずに縋ってくるのだから、タチが悪い。
「ほー…未亡人というわけか。」
「死んだとは、言ってないです」
「だが、そういうことだろう。」
「未だに受け入れられていない人にそれを言いますか。」
いや、この人も同じだ。振られたか、死なれたかのどちらかだ。
万が一でもこの人が振られることは無いな。
「悲しそうでした。」
「死に目に逢えたのなら、いいんじゃないか。」
「そうですかね」
彼は私の友人だ。
「赤が怖い」
「素面でやっと言ったか。」
「嘘、赤井秀一氏と飲んだことありましたっけ?」
「飲んだ覚えないな。それで、俺は怖くないのか?」
「まさか。友人である赤井秀一氏を怖がる理由なんてどこにもありませんよ。ただ…」
赤井秀一氏から目線を逸らし、ゆっくりと目を閉じる。
体に悪い煙が、換気のために開けられた窓から出て行く。
「いや、なんでもないです」
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白亜(プロフ) - 深月さん» ありがとうございます!頑張らせていただきます (2018年12月4日 19時) (レス) id: f49322fecc (このIDを非表示/違反報告)
深月(プロフ) - このジン好きすぎる!笑 続き楽しみにしています! (2018年12月4日 11時) (レス) id: 8705ebf4fc (このIDを非表示/違反報告)
白亜(プロフ) - りずりさん» コメントありがとうございます!頑張りますw (2018年11月10日 15時) (レス) id: f49322fecc (このIDを非表示/違反報告)
りずり - 続きが楽しみです!頑張ってください(●・ω・●) (2018年11月10日 14時) (レス) id: f9e3d4f71f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白亜 | 作成日時:2018年10月7日 10時