片目 (38) ページ38
ドンッ
貴『あっ』
ぶつかった衝撃で袋に入っていたリンゴが転がっていく。
「おいおいねーちゃん、ちゃんと前見て歩けよー」
「あーりゃりゃ、綺麗な目してるじゃん。」
拾おうとしたところ、顎を掴まれ、上を向かされる。
ベタベタしたその手に不快感を抱くが、反抗しようにも私にそんな力はない。
「こりゃ、高く売れるんじゃねえか?」
その言葉を聞いて、ため息がこぼれる。
「あぁん?」
貴『離してください。私はこれから…』
先を続けようとした時、突然白目を向いた彼の手の力が抜け、膝から崩れ落ちた。
何歩か下がって、もう片方を見ると、そちらも同じく倒れていた。
周囲の人間は叫びながら、原因の一つと見た私から逃げていく。
ああ、彼の仕業だ。
「ダメじゃないか。俺無しで買い物行くなんて…出かけるなら、連絡してって言ったよね。」
長く黒い髪を靡かせ、無表情の彼は落ちたリンゴを拾い、私が持っていた紙袋に入れた。
注意深く見ていなければ、見落としそうになった彼の微笑み。何も映さないその真っ暗な目に背筋が凍った。
視線を逸らすと、私の頬に手を添えて無理やり自分の方に向けた。さっきの手より、清潔感のある彼の手に不覚にも安心した。
貴『これくらいであなたの手間を増やすわけにはいかないでしょ、イルミ』
イル「わかってないね。君はとても綺麗な見た目なんだよ、自覚して?」
そう囁くように言うと、片目を覆う包帯に手を滑らせ、髪を梳くう。
私の鼓動は正常で、彼の言葉で乱れることがなかった。イルミの方が綺麗だと言い返したくなった。
体温を感じない手は離れて、紙袋を奪われる。
イル「さ、帰ろうか」
貴『何処に』
イル「もちろん、俺の家だよ。君はいつも俺から離れようとするけど、力も何も無いのにどう生きていくの?君の帰る場所は俺の隣…わかった?」
これはメンヘラというのか、病んでるというのか…どの道、彼は殺し屋をしている時点で、常識人じゃないのはわかっていたがここまでとは…
私の反抗的な眼差しに、彼は…
イル「君はそうまでして俺の気を引きたいんだ。俺のこと好きすぎだね…困ったな」
何故そうなる。
貴『私は別に…』
イル「うん、帰ったらお仕置きね」
彼は片手に紙袋を抱えて、私の腰にそっと手を添えて、微笑んだ。
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白亜(プロフ) - 神無月藤四郎@もか丸さん» コメントありがとうございます!楽しみにしてくださって嬉しいです 頑張ります! (2018年5月10日 22時) (レス) id: f49322fecc (このIDを非表示/違反報告)
神無月藤四郎@もか丸(プロフ) - 更新楽しみにしてます!頑張ってください! (2018年5月10日 0時) (レス) id: 9647401f65 (このIDを非表示/違反報告)
まき - ? (2018年5月9日 20時) (レス) id: d04c139f6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白亜 | 作成日時:2015年11月3日 23時